2017年の秋、食い詰めた吠夢さんは、編集者Tさんに一本の電話をかけた。
「本当に仕事がなくて困っているという内容でした。吠夢さんは、どちらかと言えば気弱な性格で新しい仕事を営業力で取ってこれるほど器用な人でもありませんでした。それに持病である糖尿病がかなり悪化していて、目が見えなくなってきていると訴えられました」
そのような状態で、雑誌で新たな連載を取るのはかなり難しいだろう。しかし今更、誰かに雇われて働くというのも、性格的にも健康的にも無理そうだった。見かねたTさんは、吠夢さんに生活保護を受けることを勧めた。そして吠夢さんは生活保護を受けることに決めた。
「ただ吠夢さんは、たとえ生活保護を受給したとしても、漫画家として活動したいという意欲はありました。そこで出版社に頼らず、自分の作品を描いてネットに投稿してはどうかと提案しました」
現在では出版社の雑誌で連載しなくても大変な人気になることはある。ツイッター、note、フェイスブックなど利用できるSNSは多い。もちろん収入をえるのは難しいが、売上で生活している漫画家もいる。もちろん吠夢さんにとっては厳しい道程だが、ただ不可能ではない。吠夢さんは「挑戦してみたい」と言った。
テーマは「自身の生き様」で行くことになった。そう言うとかっこいいが、原作付や体験ルポが多く、久しくオリジナル作品を描いていなかった吠夢氏にとっては、それ以外に選択肢がなかったのだ。「60歳を目前にひかえ、病魔に犯されている漫画家が、生活保護を受けながら再起を目指す実録漫画」への挑戦がはじまった。ただ吠夢さんはコンピューター関連にはとことん弱かった。コンピューター本体やスキャンなども持っていなかった。鉛筆で書き、つけペンでペン入れする、昔ながらのスタイルだ。だが、ネットに上げるには、コンピューター上のファイルにしないといけない。Tさんが力を貸すことにした。