先日、「日本のホームレスは、ものごいをしていない。それは、そこまで追い詰められていないからだ」という意見を耳にした。たしかに、海外旅行に行くと路上でものごいをしている人をよく見かける。
僕は韓国によく旅行に行くが、身体障害者の人が路上でものごいをしているのによく出会った。日本でも敗戦後は傷痍軍人が路上に立って楽器を演奏するなどものごいをしていたというが、実際には見たことがない。だから初めて見た時はちょっと驚いてしまった。
同行した韓国に詳しい編集者は「本当は障害を負っていない人も多いんですよ。問題になることもあります」と教えてくれた。多くの人は足に障害がある人で、黒いゴムのズボンを履いていた。擦れても大丈夫なように、履いているのだが、実際には健常者なのに黒いゴムのズボンを履いてものごいをしていたという。つまり、足がないフリをしてお金を稼ごうとしていたわけだ。あこぎではあるが、それだけものごいはお金を稼ぐことができるということだろう。
実際にものごいは、ある程度お金を稼ぐことができる。これは経験的に知っている。
まだ雑誌のコンプライアンスが甘かった、僕が20代後半の頃(約20年前)、『ものごいをしてみる』という企画をやったことがある。
目の前に空き缶を置いて、ひたすら座っているという取材だった。肉体的には楽な取材なのだが、精神的にはかなりきつかった。目の前に人が通るたびに、羞恥心や恐怖心や罪悪感に苛まれる。