漫画評「血の轍(わだち)」|毒親に飲み込まれそうになる恐怖感

コラム

 

2017年、発売されたばかりの『血の轍』の第1巻を読み終わり
「なんて後味の悪い作品だろう!」
と驚いた。だが嫌悪感を感じつつも、続きを読みたくてしかたがなかった。
そんな折、知人女性に
「なんか面白い漫画があったら教えて」

と尋ねられたので当作品を紹介した。数日後、彼女のSNSの投稿を見ると

「知人男性に勧められて『血の轍』を読んだ。

面白かったが、ものすごく怖い作品だった。なんのつもりで、幼い子どもを持つ私にこの作品を紹介したのだろうか?」というようなことが書かれていた。

 

もちろん今一番面白い作品だと思ったから紹介しただけで、他意はなかった。だが思わず邪推してしまうほど強烈な作品だったということだろう。

 

血の轍』のテーマは「毒親」である。だから妻も子供もいない僕より、子育てをする母親の方がより強烈な印象を受けたのだ。

 

序盤は、綺麗で優しいお母さんと中学生の息子のベタベタとした日常が描かれる。読者は、過保護な甘ちゃん一家のほのぼのした世界の中に、不穏な臭いが漂っているのを感じとる。

葬式会場でもくもくと焚かれた線香の香りの中に、薄く漂う死臭を見つけた時のような、ほんのわずかではあるがとても不吉な臭いだ。

 

ある日、少年は母親が重大な事件を犯す現場を目撃することになる。図らずも少年は事件の隠蔽に加担することになり、母親と共犯関係になってしまう。

事件後はますます過保護で依存しあう日々が続いていくが、少年の心はビシビシと音を立てて壊れていく。

続きを読む - 1 2

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});