下駄華緒さんは、ミュージシャン、作家、怪談師など数多くの顔を持つ下駄華緒さん。火葬技士1級を持ち、火葬場と葬儀屋で働いた経験があり、雑誌『本当あった愉快な話』(竹書房)では『最期の火を灯す者』という火葬場での体験を元にした漫画の原作を書かれている。
今回は火葬場時代で働いていた時代に出会った、人たちについてお聞きした。

多くの人は、葬儀屋が選んだ火葬場で焼いてもらうことが多いと思う。人生で何度も経験することではないから
「私の夫は、あの火葬場で焼きたい!!」
などと積極的な思いがある人は少ないだろう。ただ、自分で選ぶことは可能だ。
「僕は自分の祖母を自分で焼きました。兵庫県から大阪まで運んで自分で火葬しました。ただ、それが良かったかどうかは疑問ですね。どうしても仕事として焼くことになるので、親族としての感傷はなくなってしまいました。言い方は変ですけど、もったいなかった、と思います」
基本的には葬儀屋さんに任せきりにしようと思う人がほとんどだが、中には自分でやろうと思う人もいるらしい。
「一件だけですが、DIYで作った棺桶に遺体を入れ、軽トラで運んできた人がいました。火葬許可証をとったり、その後埋葬許可証をとったりするのはそれほど難しいことじゃないです。ただ、自分の家族が亡くなった後に、それをするのはそうとうな胆力が必要ですね」
もっと極端に、
「棺桶なんていらないだろう。遺体は自動車の助手席に載せて運ぶから良い」
という人すらいるという。
「ただ、遺体はただ動かない人ではないんですね。どんどん変化していきます。葬儀屋はそういう変化をよく分かっています。例えば棺にドライアイスを入れますが、あれはただ冷やしてるだけじゃないんです。遺体が腐りづらい冬場でも、ドライアイスは欠かせません」
ドライアイスは、当てることによって体液を凍らせているのだという。体液をコチコチに凍らせてしまえば、体液が漏れ出てくることがなくなる。
「遺体を助手席に乗せていたら、身体から溢れた液体で社内が汚れてしまう可能性は高いと思います。法的には全部自分でやっても大丈夫ですが、餅は餅屋で慣れている人たちに任せたほうが無事に済むとは思います」

日本は亡くなった人は火葬しなければならない。だから、あらゆる宗教の人が、火葬場に来る。宗教ごとに対応は変わるのだろうか?
「宗派によって対応は変えています。仏教はお焼香を出しますし、神道だと榊を飾ったりします。キリスト教の場合は献花台を出します。基本的にはこれくらいの違いなのですが、キリスト教の方には、『骨を灰になるまで焼いて欲しい』とお願いされることが多いです」
遺族の願いは叶えてあげたいが、灰になるまで焼くのは難しいという。普通は長くても90分ほどで焼き終わるが、灰になるまでとなると、何時間も焼かなければならない。炉がそもそもそういう風には、作られていないのだ。
「もし全部灰にして良いなら、完全なオートメーション化をして、灰になるまで焼き切るシステムが作れると思います。それは実はそれほど難しいことではなく、そうなれば職人もいらなくなると思います。
遺骨を残すために苦労して慎重に焼くわけです。それくらい日本人は遺骨に対するこだわりが強いです」
お骨上げの時に、骨の奪い合いが始まることは珍しくないという。
引き取り手が複数ある場合、分骨と言って小さい骨壷に分けることがある。その場合、喉仏の取り合いになる。
喉仏とは男性の喉にある出っ張りのことではない。あれは軟骨なので、火葬するとなくなってしまう。
第二頚椎(上から二番目の首の骨)であり、この頚椎には歯状の出っ張りがあるため、仏様が結跏趺坐しているように見える。
「喉仏は一つしかないですからね。遺骨の前で取り合いがはじまります。みなさん、お通夜を経て、火葬場へ来ていますから、疲れていて苛立っている場合が多いんです。ケンカになってしまうこともあります」
ただ、逆に遺骨はいらない、という遺族もいる。その場合残った骨は、合同埋葬地に埋葬される。火葬場の敷地内や霊園の中に埋葬地がある場合も多い。
「しばらく残骨倉庫と呼ばれる場所に保管します。一週間~二週間で、骨業者と呼ばれる業者に運ばれて行きます」
骨業者は市からの委託で動いている。
彼らの収入は、遺族が棺桶にいれたアクセサリーや歯のかぶせもの、人工関節などの、金属だ。金、銀、プラチナなどの金属を回収して、収入に変えている。
「レアメタルは埋蔵量が決まっているわけだから、ただの心情で埋めてしまうより、再利用したほうがいいですよね。
親族が亡くなった時は、アクセサリーなどは外したほうが良いです。どうせ回収されてしまうわけですし、アクセサリーを入れることで遺骨が綺麗に残らなくなる場合もあります」
ガラス製品が溶けて喉仏に張り付いてしまったり、金属のせいで色がついてしまったりと、弊害はあるという。
「骨に色がついていると『花の色がつきました』と説明する場合が多いですけど、ウソです。金属が燃えたせいですね。お骨を綺麗にのこしたいなら、なるべく棺桶の中に物を入れない方が良いです」
火葬ならではの苦労やトラブルもあるけれど、ただ下駄さんは火葬という遺体の処理方法は好きだという。
「火葬は好きですね。遺体が炉に入って、数時間後には骨になって帰ってくるじゃないですか。完全に形が変わるわけです。だから『亡くなったんだな』と心の中で納得しやすいと思うんです。
土葬だと、なんだか踏ん切りがつかないというか、まだ居るんじゃないかな? とどうしても思ってしまいそうです」

下駄さんと話しながら、僕は昨年自分の師匠が亡くなって火葬されたのを思い出した。
病気で痩せて苦しそうな遺体を見るのはつらかった。火葬されて骨になった師匠を見て、とてもさみしいながらも、どこか安堵したのを覚えている。

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