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心の病とゴミ屋敷の関係は? 尿の詰まったペットボトル600本が転がる部屋を清掃して見えてきた事実

僕は以前、株式会社まごのて という清掃会社で取材を兼ねたアルバイトをしていた。
株式会社まごのて は、いわゆる「ゴミ屋敷」や「孤独死部屋」などの、特殊な清掃を専門で請け負う会社だった。2年間以上働かせていただき70以上の現場を回った。その経験は単行本『ゴミ屋敷奮闘記』(有峰書店新社 )にまとめさせていただいた。アルバイトをやめてからずいぶん時間が経ったが、いまだにルポを書かせていただいたり、識者として語らせてもらうことがある。

 

 

そんな中で、とてもよく聞かれるのが、「部屋をゴミ屋敷にする人は心の病気なんですか?」という質問である。これはなかなかむつかしい問である。ひとくちにゴミ屋敷と言ってもゴミの量もそれぞれだし、汚れ方もさまざまだ。だから「ゴミ屋敷に住む人は心の病気」だと決めつけるのは乱暴ではある。とは言え実際、心を病んでいる住人が多いのも事実だった。

 

「セルフネグレクト」という言葉がある。ネグレクトは「忘れる」、「おろそかにする」、「顧みない」というような意味がある。セルフネグレクトは、「自らのケアをおろそかにする行為」を指す。
具体的には
「風呂に入らない」
「部屋を片付けない」
「金銭の管理ができない」などが当てはまる。ゴミ屋敷の住人は、まさにセルフネグレクトと言えるだろう。

 

しかし「部屋が片付けられない人」というのはよくいる。げんに、僕も部屋はだいぶ汚い。清掃の本を書いているんだから部屋をキレイにしなければ、と思うが気づいたら足の踏み場もなくなっている。そんな人は多いだろう。だが、大規模なゴミ屋敷はレベルが違うのだ。

 

今回紹介するゴミ屋敷は、40代の男性の一人暮らしの部屋だった。賃貸の1Kの普通のアパートだ。
ドアを開けると、玄関までゴミが押し寄せてきていた。部屋には天井近くまでゴミがたまっている。

 

 

「足の踏み場もない」というようなレベルではない。ゴミをよじ登らないと部屋に入ることすらできないのだ。その部屋は10年をかけて出来たゴミ屋敷だという。
皆さんが部屋を見たら、「一体、この部屋のどこに寝ていたのだろう?」と思うだろう。実際、この部屋の住人はあまりにゴミが多くなりすぎて、部屋での生活ができなくなり、車上生活をしていた。だが、この部屋の特徴は、ゴミの量ではなかった。

 

部屋を掃除していくと、飲みかけの烏龍茶の2リットルのペットボトルがたくさんでてきた。ゴミ屋敷には、ペットボトルゴミや、コンビニ弁当の容器ゴミなどが大量に出るので最初はなんとも思わなかったが、それにしても量が多かった。ためしにフタを空けてみると、ガツンと頭を殴られたような強烈なアンモニア臭がした。

 

その部屋に転がっているペットボトルの中身は全て、家主のオシッコだったのだ。オシッコは出た時は黄色いが、ずっと放置しておくと酸化して茶色になるのだ。だから烏龍茶のペットボトルに入っていたら気づかなかった。
しかし、よく見れば、スポーツドリンクのペットボトルも緑茶のペットボトルも茶色い液体が入っていた。仕方がないので、家の前の側溝に捨て始めた。とにかくひどいアンモニア臭がする。しかも次から次にオシッコ入りペットボトルは部屋から発掘されるので、きりがない。
しかたなくオシッコの入ったペットボトルは、窓を空けたところにあった小さな庭に並べていった。しかし庭だけでは全然収まらなかった。部屋の端っこに積んでいき、さらにクローゼットの中にも積んで、やっと収まった。
結局発掘されたペットボトルは600本以上になった。約2リットル入っていたとして、1トンである。1Kの部屋に、1トンの尿があったというのは衝撃である。

 

 

1トンのオシッコを一本づつジャバジャバと捨てていたら朝になってしまう。かといって、オシッコの入ったペットボトルは、ゴミ処理場が受け付けてくれない。大いに困る。
まごのての社長に話を聞くと「オシッコ入りのペットボトルはちょくちょく出てくるよ。俺らはションペットって呼んでるけど。男の一人暮らしに多い。ズボラなやつがやるんだろうけど、ただここまで多いのは珍しいな……。わけがわからんなあ」と苦笑いで答えてくれた。

 

とにかくオシッコの処理は後回しにして、部屋の清掃を続けた。部屋にはオシッコ入りペットボトル以外のゴミもたくさんあった。ゴミを袋詰してトラックに詰め込んでいった。ゴミが減ったところで、トイレのドアを開けた。部屋中をオシッコのペットボトルだらけにするくらいだから、トイレは当然詰まっているだろうと思っていた。下水が詰まってしまって、汚物が山のようになってしまった便器を掃除することも、ゴミ屋敷清掃ではしばしばあることだ。
しかし意外なことに、トイレは詰まっていなかった。もちろんキレイなトイレではなかったが、部屋の汚れに比べればまだまだ全然マシな状態だった。「トイレは使える状態なのに、ペットボトルにオシッコをしていたのか……」ととても不思議な気持ちになった。なんとか夕方には、オシッコ以外のゴミはトラックに積み込むことができ、必要な物も仕分けることができた。大量のペットボトルはその日のうちに処理することは不可能であり、結局家主と話しあった結果、家主自身が少しずつすてていくことになった。

 

話を冒頭に戻すと、この部屋の住人はどう考えてもセルフネグレクトであり、その結果自分の部屋をこの惨状にしてしまったのだろう。そして「彼は病気なのか?」と言われれば、おそらく病気だったんだと思う。ただ「ゴミ屋敷と病気」の関係は「タマゴが先かニワトリが先か」のようなところがある。
病気だからゴミ屋敷になったのか、ゴミ屋敷に住んでいると病気になるのか? である。
実際誰でも、ゴミ屋敷に住むと病気になってしまうと思う。皆さんも机が散らかっていたり、部屋が荒れていただけで、気分が鬱々とすることはあるだろう。天井までゴミが詰まっている部屋に住んでいたら、どのような毎日になるだろう? 想像するっだけで鬱屈とした気持ちになるのではないだろうか?
たとえ仕事をしていても、遊びに行っていても「あのゴミ屋敷に帰らなければならない」「近所の人にバレたらどうしよう」「清掃を誰に頼めばいいのだろう? 一体いくらかかるのだろう?」と心の奥の方ではずっと気になるだろう。ゴミ屋敷に住んでいる人の中には、思い悩んで自殺を考える人もいる。

 

そもそもはうつ病や発達障害が原因でゴミ屋敷になってしまったのかもしれないが、部屋がゴミ屋敷化した後はゴミ屋敷に心を壊されていくのだ。だから、部屋を清掃してゴミ屋敷でなくしてしまえば、少なくとも負のスパイラルは収まる。「でもゴミ屋敷にしてた人は、たとえ片付けても、またすぐにゴミ屋敷にしちゃうんじゃないの?」と思うかも知れない。確かに片付け下手なの人は、たとえ一旦掃除をしても治らない場合が多い。

 

その対策として、まごのての場合は、定期的に連絡をして「ゴミ屋敷になっていないか?」と聞くようにしていた。たとえ再びゴミ屋敷化がはじまっていたとしても、3年溜め込むよりは、半年で掃除したほうがずっと楽に安く片付けることができる。そして「誰かに気にかけられている」と思うと、片付けられるようになる人は多いそうだ。オシッコペットボトルの部屋の主にも定期的に連絡を取り、少しずつ自分でトイレに捨てて全て処理したという。

 

部屋をゴミ屋敷にしてしまう原因の一つは心の病気な可能性がある。
ただ家族や第三者の協力や支えがあれば、未然に防いだり、修復したりすることは十分にできる。
必要以上に、落ち込んだり、自分を卑下する必要はないのだ。