今回は、NPO法人 ガブリエル 理事長の松尾 由理江さんにインタビューした。NPO法人 ガブリエルは、目黒区やその周辺地域で主に医療的ケアが必要な子供たちのために、居宅介護や、移動支援、相談支援などを運営している。
※ 新型コロナウイルス感染防止のため、ビデオ通話でのインタビューを行いました。
【自分も同じような生活をしていたかも】
田中:まず最初に、ガブリエルを立ち上げようと思ったきっかけを教えてください。
松尾:私には、4人の子どもがいるのですが、3人目の子どもを生後2日で亡くしています。
その子は、横隔膜ヘルニアという病気があり、無事に成長しても、寝たきり状態だったと思います。
その後、相談専門員として働いていて、医療的ケアが必要な重度の障害者のお母さんたちと話していく中で過酷な状況を知りました。そういう子どもたちのお母さんって、一日中子どもにつきっきりで、自分が病院や買い物に行くこともままならない。一方、子どもたちも学校に行けず、ずっと家の中で過ごしている。そんな生活、人間らしくありませんよね?
もし、3人目の子どもが生きていたならば、私自身もそういう生活をしていたと考えると、いても立ってもいられなくて。何とかしたくて10年ほど前から準備をしていました。
田中:10年前から⁉ 相談支援専門員として働きながら、ご準備をされていたのですね?
松尾:そうですね。平日は、相談支援専門員として勤務しながら、土日には研修などに参加しながら勉強する生活を4年ほど続けていました。
【「私が頑張って育てないと!」親の気持ちを優先する支援】
田中:現在、目黒区にはどれくらいの医療ケア児がいるのですか?
松尾:正確な数字は把握できていませんが、約45名ほどいらっしゃいます。その中でも多いケースは、口頭軟化症などの合併症があり、口からミルクや食事を摂ることが出来ない子達です。そういう子供たちは、鼻からチューブを入れて生活しています。
田中:正確な人数を把握できない理由はありますか?
松尾:区の障害福祉課が把握しているのは、公的な福祉サービスを利用しているご家庭の数のみだからです。
田中:ということは、医療的ケア児を育てているご家庭の中には、福祉サービスを利用しない方もいらっしゃるということですか?
松尾:生まれたばかりの赤ちゃんや、引っ越してきたばかりの人はもちろん、お母さんたちの中に「私が、頑張って育てなければ!」と、公的なサービスを利用しないという方もいらっしゃるんですよ。お母さんならではの気持ちですよね。
田中:でも、医療的ケアが必要なお子さんのお母さんたちは休む暇もないんですよね?ヘルパーさんに来てもらうとか、公的なサービスを利用する方が、親御さんもやすめそうなのに。松尾さんたちは「こういうサービスがありますよ」など、提案することはないのですか?
松尾:私たちは、お母さんの気持ちを優先したいと考えています。お母さんが「一人で育てたい」という場合には、見守ります。「一人では難しいかも」と相談があったときには
手を差し伸べます。
田中:手を差し伸べてあげることは簡単だけれども、一番大切なのは、お母さんが「どのように、自分の子どもを育てていきたいか」という気持ちですもんね。