特殊清掃の現場は“死臭”との戦い。刻々と悪化する状況の中で戦う、作業員に同行【現地取材】敢行。

僕は、ゴミ屋敷や特殊清掃を請け負う業社で2年間働いていた。特殊清掃とは、死体が発見された部屋の清掃のことを指す。僕自身は特殊清掃の経験はないのだが、4件ほど現場に立ち会っている。

特殊清掃の話をするとよく
「死体は室内に放置されているのですか? どうやって片付けるのですか?」
と質問される。
特殊清掃業者が現場に入った段階で、その場に死体はない。すでに運び出されている。当たり前の話だが警察がいつまでも適当に死体を放置しておくはずはない。現場検証がなされた後は、すみやかに死体は移される。亡くなってから発見されるまでの時間が短い場合、死体を運び出した後の部屋は普通の部屋と変わらない。冬場は腐敗の進行が遅いため、日数が経っても死体が腐敗しない場合もある。正月にお風呂で薬物を飲んで自殺した青年の死体写真を見たことがある。風呂の水は死後も出しっぱなしになっていた。冬場だから水温はかなり低かったのだろう。死後数日経っていたそうだが、風呂でうとうとと眠っているようにしか見えなかった。
部屋の状態がキレイな場合、管理会社や大家は普通の清掃業者を呼べば良い。もちろん家族が自分で片付ける場合もある。僕も、知り合いの父親が部屋で孤独死した際、清掃を手伝ったことがある。亡くなって数日経っていたが、痕跡も臭いもほとんど残っていなかった。
すなわち特殊清掃業社を呼ぶということは、自分たちでは対処できないと家族や大家が判断したということになる。「死体は警察によって運び出されているなら、問題はないのでは?」と思うかもしれない。確かに、死体の大部分は警察が運び出している。ただ、死体が腐って出た液体や身体から剥がれ落ちたモノは、現場に置き去りにされることが多い。それらは法的に“死体”ではなくなり、専門の廃棄物処分場で処理される。
現場には特に、頭皮は現場に落ちていることが多い。髪の毛は頭蓋骨に乗っかっているだけなので死後しばらくすると腐った頭皮ごとずり落ちるのだ。風呂桶の中で亡くなった場合、死体が水に溶け出しドロドロになることもある。骨などが大量に残されるし、その液体も全て処理しなければならない。見た目も臭いもとても厳しい現場だ。ただ風呂はそもそも水を外に漏らさないよう作られているため、風呂場を超えては汚染が広がりづらいので清掃自体はやりやすいという。
僕が現場を見たとあるケースを紹介する。千葉県のとある住宅街の集合住宅で亡くなった70歳の男性の部屋の清掃に同行した。死後一ヶ月経って、同じアパートの住人が臭いで気づき通報した。アパートのドアはカギがナンバー式で、亡くなった本人しか番号がわからなかった。そのため窓から入るしかなかった。グルリと建物の裏に回る。
窓は一旦警察によって割られており、そして布粘着テープで目張りされていた。窓の内側には、おびただしい数のハエがとまっていた。少しだけ窓を開け、中に殺虫剤を散布する。下手に開けると、ハエが飛び出して周りに迷惑をかける可能性があるからだ。

しばらくたち、ハエがおとなしくなったのを見届けてから、窓から室内に入る。入った途端にズンと脳に直接響くような死臭が鼻をついた。かなりキツイ臭いで、胃がビクンビクンと痙攣してえずきそうになった。作業員は、「1カ月ほどほったらかしだったから、遺体だけじゃなくて買い置きの食材も腐ってるみたいですね。ハエはそこからも湧いてます」とこともなげに言う。
どうやら住人は、玄関に向かうように倒れて亡くなったようだ。風呂場と玄関には吐血した痕があり、病気で苦しくなって外に出ようとしたのかもしれない。廊下の倒れていた場所にはやはり髪の毛がごっそりと落ちていた。作業員は防護服を着込み、厳重なマスクを装備してから清掃の作業に入った。血や体液で汚れた床や壁紙を剥がす。今回のお宅は、床材がクッションフロアだったので簡単に剥がすことができた。フローリングだったり、畳だったりすると、撤去するのも大変だ。

身体から出た液体は部屋中に広がっていく。赤黒い液体というイメージがあるだろうが、透明の脂も出る。脂は表面だけじゃなく、様々な場所に染み込んでいく。電線コードや断熱材にまで汚染されることは珍しくない。汚物はできるだけ撤去して、部屋全体を消毒しても、だいぶ薄くなってはいたがまだ臭いは消えなかった。その後オゾン消臭機で数日間、消臭を続けて、やっと臭いが消えるという。特殊清掃において、“死臭”が一番の大問題なのだ。
死体が腐乱して、近所の人が気がついて発覚した場合、状況は刻々と悪くなっていく。死体の大部分は警察が回収しているとはいえ、先程述べた死体からの落とし物はどんどん腐敗していく。つまり発見時、すでに周りの住人に迷惑をかけていて、そしてその後もずっと迷惑をかけ続けることになる。
「特殊清掃というのは緊急を要するんですよ。そこがその他の清掃とは全く違うポイントなんです。掃除が遅れれば、周りの住人は非常に困ります」(清掃員) 特殊清掃でも相見積もりをとり、なるべく安い業者を選ぶ大家もある。相見積もりとは複数の業者を呼んで、価格や条件を比較することだ。そうやって検討して時間が経つ間に、近くの部屋の住人がどんどんと退去していくケースは少なくない。誰だって、四六時中死臭が漂っている部屋には住みたくない。

その場合、不動産屋や大家の損失はとても大きくなる。前もって、信頼できる特殊清掃業者を調べておくのが望ましいだろう。
特殊清掃の現場には死体はない。死体はないが、その痕跡はありありと残っている。場合によっては彼らは、生きている時よりずっと激しく自分の存在をアピールするのだ。