今回、お話を伺うWさんは35歳のシングルマザーだ。お子さんは、小学生になる。彼女はいたって社交的で、明るい雰囲気だ。そんな彼女の両腕にはおびただしい数の傷跡が並んでいた。ちょっと圧倒される量だ。
「これでも最近は治ってきたんですよ。子供が生まれてからは一応自制しているので」とWさんは言う。
当時は一本一本の傷跡が、ミミズのように腫れていたという。「初めてリストカットしたのは11歳の時ですね。小学校5年生。もう24年も前になります」Wさんは、その当時学校で凄惨なイジメにあっていた。あだ名は「豚」「家畜」だった。クラスメイトには、「豚はしゃべるな!! ブーブーと言え!!」と嘲られた。
机には「死ね」と彫られ、ロッカーや跳び箱に閉じ込められて放置され、ほうきで殴られた。でも、親には相談できなかった。
「もともと私は人と話すのが下手なんです。ちょっとでも恥だと感じると言えなくなってしまうんです」
「親に心配をかけたくない」
「直面している事実を受け入れたくない」
「自分が親に言ったことで、大事になるのが嫌だ」
と複雑な感情がからみあい、結局誰にも相談できなかった。そしてストレスが彼女の心を蝕んだ。
「はじめは安全ピンでした。安全ピンで腕を引っ掻いてましたね。なぜそんなことをはじめたのか、理由はわかりません。学校や家族で溜まったストレスをどこかに八つ当たりしたくて、でも結局ぶつける場所がなくて、自分にぶつけていたのかもしれません。その頃は、自傷癖は親にも先生にもバレていなかったと思います」
中学校に入って、身体を傷つける道具が安全ピンから、ハサミになった。ハサミで身体を切るというと、すごく痛そうだが、それには理由があった。
「私って切る時にすごい力をこめちゃうタイプなんですね。だからカミソリやカッターだと深く切れ過ぎちゃうんです。ハサミは切れ味が、さほど良くないので、力を入れてもそこまでは切れないんですね」深く切りすぎると救急車を呼んだり、入院したり、めんどくさいことが多くなる。家族に気づかれて、迷惑がられるのは嫌だった。
「だけど家族にはどこかで気づいて欲しかったと思います。でも毎日リスカをしても、気づいてもらえませんでした。15歳くらいの時に『私は精神障害かもしれない』って母親に相談したことあったんです。そうしたら、母親は『あなたはそういう(サブカル的な)本や漫画を読んで、それに憧れてるだけだから』と言いました。私は誰からも理解されてないし、受け入れられてないんだな、って泣きながら笑いました」ハサミは切れ味が悪いが、それでもパカッと肉が開いてしまうくらいには切れる。