彼女が、リストカットをする理由とは? 明日を生きるために自らを傷つける人もいる。

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「すごく手際がよくなりました。ハサミはリストカット専用のを持っていて、使った後はきちんと消毒液で殺菌してました。止血の準備などをして、決めた音楽をかけてから、スパッといってました。傷口は応急処置として瞬間接着剤で固めることもありました」中学校を卒業しても、高校へは進学しなかった。フリーターになって夜中まで起きているようになった。夜中なら親の目を気にせずカットができるので、自傷行為はどんどんエスカレートしていった。リストカットでは手首を切るが、Wさんは腕の外側も切った。その行為は、アームカットと呼ばれる。左腕に切る場所がなくなると、右腕も切った。15歳くらいからは、タバコの火を押し付ける、いわゆる根性焼きもするようになった。腕にもう傷つける場所がなくなるとお腹や足も切るようになった。傍から見ていると、痛くてたまらない行為に見えるが本人はそんなことはないという。

 

「カットをする時は、心がひどくダメージを受けている時なんですよ。そういう時は何をやってもあんまり痛みを感じないんです。切った後は精神的に安定します。血が流れているのを見ると、安心感で満たされます。むしろ、身体に生傷がないと落ち着かないくらいでした」

傷が増えていくことに関しては、何も考えていなかった。将来傷があることでアルバイトの面接などで困ることになるなど想像もしていなかった。

 

「カットって『かまって欲しい』って気持ちがこめられている場合も多いと思うんですけど、私の場合『かまわないで欲しい』っていう気持ちも強くありました」
生傷があったり、ぐるぐると包帯を巻いている人には、なかなか他人が関わってくることはない。Wさんは顔にピアスを開けたし、入れ墨も入れたが、それにも同じような意味があった。「近寄らないで!!」というサインなのだ。小学生時代からイジメられ続けた、彼女なりの防御の方法だった。

 

Wさんはその後結婚したが、あまり幸せにはなれなかった。20歳の時、部屋に行くと夫の横に裸の女が寝ていた。旦那はWさんに土下座をすると、「この子と結婚したいから、頼むから離婚してくれ」と言った。

 

「元夫の浮気で、心身ともにボロボロになりました。離婚して私が出ていくことにしましたが、なんだか無性に悔しくて嫌がらせをすることにしました」夫の部屋に、大きな血溜まりを作ってやろうと思った。部屋に入ってきて、床が血だらけだったら、さぞかし夫は嫌な気持ちになるだろう、と考えた。だが、いつも使っているハサミはすでに引っ越しで片付けてしまっていた。代わりになるものはないか探したら、洗面所に安全カミソリがあった。カミソリやカッターではリストカットはしないというのが彼女の不文律だったが、その時ばかりは掟を破った。

 

「安全カミソリでガッと手首を切りました。血がダバダバと溢れました。傷口からは、血管、脂肪、筋、がハッキリ見えて『おお……人体だ』と思いました」

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