彼女が、リストカットをする理由とは? 明日を生きるために自らを傷つける人もいる。

インタビューそのほか

血は目論見通り、床に溜まっていった。これを見たら、夫はどんなにか嫌な気分になるだろうと思う。だが、このまま流血したら死ぬな……と感じた。
「小さい頃から死にたかったんです。だから死んでもいいんですけど、でもその時は死ぬのに納得できなかったんです。……なんか理不尽じゃないですか(笑)」
Wさんはがんばって自分で止血をした。なんとか血を止めると、片手で119番に電話をかけ、「手首を切ったら、血が止まらなくなりました」と素直に言った。部屋に来た救急隊員は、「血の汚れを掃除をしましょうか?」とWさんに聞いたが、「絶対に掃除しないでください!!」と答えた。ここで掃除をされてしまったら、手首を切った意味がなくなってしまう。

 

救急車に乗っている間は、自分で血を押さえていた。だから、あまり重症じゃないと思われたのかもしれない。病院についても、20分は待たされた。自分で止血するのが限界になり「まだでしょうか?」と看護婦に伝えると、ではどうぞと診察室に通された。「とりあえず、手を離してもいいですよ」と若い医者は言った。Wさんは躊躇しながらも、医者の指示にしたがった。血は再びダバダバと溢れた。医者と看護師は血相を変えた。近くにいた経験豊富な小児科の先生が来て縫ってくれた。8針縫った。血管と一緒に神経も切れてしまったため、ちゃんと動かせるようになるまで、自宅でリハビリするはめにはった。

 

「元夫とはそれ以来会ってません。慰謝料を請求したら素直に支払われました。床の血が効いたのかもしれませんね」
そうしてWさんは、リストカットと長く付き合ってきた。物事を、善か悪かで単純に分けるなら、自傷行為は悪い行いなのかもしれない。だけど、Wさんは身体を刃物で傷つけることによって、自分を守ってきた。「15歳の時に精神科に行ったら、女医さんに『じゃあとりあえず、一週間リストカットしないでね』って言われました。タバコだってそう簡単にやめられないですよ。初めて会ったあんたに、やめろって言われて『はいやめます』ってやめられるんなら苦労しないんだよ、って憤りました」

 

「見ていて痛々しいからやめろ」
「親からもらった身体を傷つけるな」
などと自傷癖を止める人はたくさんいたが、Wさんの胸には響かなかった。「リストカットしか逃げ道がない人から、それをうばったら、逆に死んじゃいますよ。それでなんとか心の均衡を保っているんだから」

 

その後、Wさんには子供ができた。2番目の夫は出産の時には刑務所に入っていて、その後離婚した。子供ができて、生活は一変した。生きていたいと思えるようになった。子供の手前、リストカットもやめた。「でも実は、自傷したくなる気持ちは抜けていません。他人から攻撃を受けたときなど、すごくやりたくなります」

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