『病識』という言葉がある。
自分自身が病気だという自覚がある、という意味だ。
はたから見ていたら、あからさまに病的な症状が出ている場合でも、本人は
「自分は病気ではない」
と思っているケースがあり、
「病識がない」
と言われる。統合失調症や認知症では、病識がない人が多く見られるそうだ。
本人は病気と思っていない場合、治療がなかなか進められないなど問題も起こる。
僕は、2年以上に渡りゴミ屋敷の清掃を請け負う会社で働いた。
ほとんどの現場は一人ではどうしようもないレベルのゴミ屋敷だった。ひどいゴミ屋敷だと、ゴミの量も恐ろしいことになる。
ある広めの2Kのゴミ屋敷には、10年分のゴミが溜め込まれていた。ゴミの層は床から1.5メートルほどの厚さがあった。
何往復もしてゴミを出した結果、2トンロングのトラック4台分のゴミと、軽トラ一台分の本のゴミが出た。
「2トンロング4台分じゃあ、部屋の体積よりも大きいんじゃないの?」
と疑う人もいるかもしれない。
住人は、毎日ゴミを踏んで生活していたのだ。特に玄関あたりは毎日何度も踏むので、カッチカチに固まっている。清掃する時は、土を掘り起こすような感じになる。
そして掘り出した途端にゴミは空気を吸って膨らむのだ。ゴミ袋に入れる時は、あまり詰め込みすぎると破れてしまうから、わざとフワフワな感じで詰め込む。トラックに詰め込む時に再度圧縮できるわけもない。結果的に、2Kの部屋の体積を超える大量のゴミが排出されることになるのだ。
僕が働いていた業者では依頼人のほとんどは、ゴミ屋敷を作った本人だった。
「いつか片付けよう……」
と思っているうちにゴミがたまり、一人ではどうしようもなくなってしまう。それでネットで業者を検索して、連絡をしてくる……という流れだ。
だから、もちろん本人は自分の部屋がゴミ屋敷であることは認識している。会うなり、
「すいません、こんな部屋で……」
と謝られることも多かった。