マイノリティのためのお役立ち情報&コミュニティ

「警察官だって3日食べてないって言えば500円くらいくれるよ」と語る、多摩川の河川敷で生活するホームレス。餓死、病死、飛び降り自殺……死はいつも近くにある。

多摩川のホームレス

多摩川河川敷を歩いていると、橋の下に大きな小屋を見つけた。大きさもさることながら、小屋の周りには電化製品や廃材が置かれていてアート作品のような雰囲気になっている。思わず足を止めて眺めていると、

「ようあんた、その家に用があんのかい?」

とちょっとつっけんどんに声をかけられた。見ると、自転車に乗った70歳前後のおじさんだった。ちょっと訝しんだ目でこちらを見ている。

多摩川河川敷の小屋
多摩川河川敷に建てられた小屋

「俺は、そこに引っ越してきた人にお世話になってるからよう。いたずらとかされたら、困るんだよ」

と言われた。素直に

「すいません、ちょっと見てただけです」

と謝る。
ただ「引っ越してきた」というのが気になったので、事情を聞いてみる。

多摩川のホームレス
多摩川で生活する男性

「そこ住んでた人いなくなって空き家になってたんだよ。で、知り合いが引っ越してきたの。
小屋はよく人がいなくなるよ。ただどっかにいなくなる場合もあるし、死んじゃうこともあるよ。そこに住んでた人はたしか死んだよ」

とこともなげに言った。
ただ住んでいた人が亡くなったという話を聞いて、僕の顔色が変わったのをおじさんは察したようだった。

「まあこんな生活やってたら死ぬ奴は死ぬからよ。こないだも俺の小屋の近所に住んでいるヤツが死んだよ。なんかで足を怪我して、そこが化膿したらしいよ。腫れちゃって。ボランティアの人から病院に行けって言われてたんだけど、本人が嫌だって言って、そのまま死んじゃった」

とサラリと言った。
人がいなくなった後の小屋には、違う人が住む。昨今人が亡くなった物件は事故物件と言われて忌み嫌われているが、多摩川の河川敷ではそうでもないようだった。
上野公園などでは、人がいなくなった小屋はすぐに公園管理事務所に撤去されていた。
現に小屋には、国土交通省から占用の許可をえている東日本高速道路(株)と京阪管理事務所からの警告の張り紙が貼られている。


『告 この土地は東日本高速道路(株)が国土交通省より占用を受けている河川敷です。面積の大小にかかわらず使用されることは明らかに違法行為です、速やかに撤去されるようお願いします。』
と丁寧な言葉でおどしている。
強制撤去されないのか気になった。

「バカ、撤去するったって金がかかるだろうよ。2トン車呼んだら7~8万はかかるよ。人も2~3人はいるだろ? 業者に頼んだら、それこそ何十万もかかっちゃう。役人だって、そんな大事にしたくないだろ。
ちなみにその小屋の周りにあるゴミの半分は、一般の人が持ってきた物だぜ。近所の連中や、花火に来た連中が置いていくんだ」

まあ、たしかに河川敷の橋の下に小屋がひとつあったからって、誰も困らない。
わざわざ撤去するために大変な思いをしても、結果的に得るものもさしてない。

「結構、ここいらで自殺してる人も多いよ。ホームレスも一般の人も。橋から飛び降りたりしてな。あんまり話題になってないから、たぶん役所が揉み潰してるんじゃない? 自殺の名所になっても困るだろうからさ」

というと、おじさんは楽しそうに笑った。

たしかに河川敷で生活しているホームレスに話を聞いているとたまに
「橋からの飛び降り自殺を見たことがある」
と耳にする。多くの人は
「警察官に何度も何度も同じ話聞かれて大変だった」
と続ける。
日本で自殺スポットと言っても橋はあんまりピンとこないが、アメリカのゴールデンブリッジや、韓国のマポ大橋は自殺の名所になっている。報道があいつげば、自殺スポットとして人が集まってくる可能性はある。

しばらく話をしていたので警戒心が弱まったのか、よもやま話に付き合ってくれた。
河川敷のほうを軽く指差す。

「ここらへんの風景も変わったよ。昭和30年台はゴルフ場だったんだよ? でもボールが電車にあたったらまずいってんで、バイクのサーキットになったんだ。
んでそれも壊して、屋根付きの休憩所とかになってな。そして今は木を植えて、水が流れる公園にしてるんだ。これもあと何十年かしたら違うもんねなるんだろうけどよ。まあ俺は70でもうすぐ死ぬから関係ねえけどな。わはははは」

実際、話を伺った数年後である2019年の10月には台風による被害もあったことから、より安全になるよう川、河川敷ともに工事が勧められている。
おじさんは、頻繁に“死”を口にする。だが言い方は明るい。それに、まだまだ元気そうである。

「そりゃ元気だよ。まだまだ飯を食わなきゃいけねえからな。俺は食うために生きてんだよ」
と言った。「生きるために食う」のではなく「食うために生きる」のか。なんだか、凄味みたいなものを感じた。

「まあここいらじゃ、よく人が死んでるから、普段から私服の刑事(デカ)がウロウロと回ってるよ。俺らにも『身体大丈夫かい?』なんて聞いてくるよ」

河川敷や公園で取材をしていると、
「警察に冷たくされた」
「暴言を吐かれた」
なんて声をよく聞く。でも優しい警察官もいるらしい。
「刑事は俺みたいにバカじゃねえから、話しかけてもベラベラとは喋らねえけどな。
『3日間何も食べてないよ』
とか泣きつくと、500円くらいくれるよ。まあ嘘で言ってたらもらえないかもだけど。なりを見りゃ本当に食ってないかどうかはわかるからな。
役所の人だって本気で『もう3日間も食ってないんですよ』って言えば、500円くらいくれるよ。まあ絶対にもらえるわけじゃねえし、名前も書かされるけどな」
とおじさんは少し得意そうな顔で言った。
なかなか生々しいサバイバル術である。
でも確かに、餓死するくらいなら、誰かに頼ったほうがずっと良い。
おじさんは片手を上げると、キーキー音のする自転車に乗って行ってしまった。
なんとなくおじさんが言った
「俺は食うために生きてんだよ」
という言葉を反芻しながら駅に向かった。