樹海に行ったことがない人によく
「樹海ってコンパス効かないんですよね? 迷ったりしないんですか?」
と聞かれる。コンパスが効かなくなるのは、都市伝説だとすでに解説した。だから自信を持って
「迷ったことはないですよ」
と答えたいところだが、実は迷ったことがあるのだ。
はじめて樹海に行った時は、かなり過剰な装備で樹海にいどんだ。水だけで4リットル持っていったし、物理コンパスや地図、熊よけスプレーなど、大型のリュックがパンパンになるくらいだった。
樹海に繰り返し足を運ぶたびに、段々と装備は簡略化されていった。ダメな傾向だとは分かっているのだが、装備が軽くなると樹海を歩くのは格段に楽になる。もちろん体重もなるべく軽い方が樹海では有利だ。
その日は、樹海で死体を探すのを趣味にしている人たちを中心としたパーティで樹海に向かった。
死体を探す人たちはあまり固まって行動しない。理由はみんなで動くと死体の発見率が下がるからだ。バラバラで進めば、それぞれが自分のルートで死体を発見をする可能性がある。だから一旦樹海の中で集合したら、解散してバラバラに歩いてまた樹海の外で集合する。集合場所はGPSの座標で決める。
その時僕は一人で踏破する装備は持ってきていなかったので、前を行く人について歩いていた。
一旦樹海のど真ん中で集合した時には、時間は15時を回っていた。朝から一日かけて樹海を歩き回ったのだが、死体は見つかっていなかった。皆の中にじんわりと焦りの感情がわいている。早々に解散してバラバラに歩き、再び富岳風穴の駐車場で集合する。