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“事故物件住みます芸人”松原タニシが逝く『死を見つめる旅路』とは?

松原タニシ

松原タニシさんは“事故物件住みます芸人”として知られている。そして著者累計30万部を突破した、人気作家でもある。

著書『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房)はベストセラーになり、映画化もされた。映画もヒットして、昨年『事故物件怪談 恐い間取り』の続編である『事故物件怪談 恐い間取り2』(二見書房)が発売された。
また事故物件シリーズとは別に『旅』をテーマにも本を書いている。『恐い間取り』の翌年には、『異界探訪記 恐い旅』(二見書房)を上梓している。心霊スポット、事件現場、などタニシさんが実際に旅をするルポだ。
そしてこの本の続編と呼べる『死る旅』(二見書房)が、本日7月9日に発売された。

死る旅、書影

今回は、新刊の内容について伺うため、タニシさんのお宅を訪ねた。

タニシさんは現在も事故物件に住んでいる。最新のお宅は13軒目になる。同時に5軒の物件を借りている。
今年になって賃貸しはじめたという東京の物件にタニシさんと一緒に足を運ぶ。タニシさんも久しぶりに訪れるそうで、スマホで地図を確認しながら進む。

「ここですね」

とタニシさんが指差す先を見ると、小さめの鉄筋コンクリート造りのアパートがあった。

「まず一階で人が亡くなっているらしいです。で2階で殺人があり、僕の借りた部屋でも人が亡くなっていると言われています」

と淡々と語りながら、部屋に案内してくれた。最低3人が亡くなっている、なかなかヘビーな物件である。
鍵でドアを開けようとするが、なかなか鍵が合わない。5軒も物件を借りていると、鍵の管理もなかなか難しくなるのだろう。

部屋を開けるとかなり狭い1ルームだった。部屋の端っこに小さなキッチンがあり、ユニットバス、エアコンは設置されている。

ただ狭いけれど、壁や床の状態は良く、日当たりも良いので清潔感はあった。床に体液のシミがあったりするような事故物件独特のおどろおどろしさはない。

タニシさんが住む事故物件には何度か訪れたことがあるのだが、来るたびに不安になる。
「人が亡くなった物件に足を踏み入れるのだから不安に感じて当たり前だろう?」
と思うかもしれないが、不安の発生源はそこではない。

タニシさんは事故物件から事故物件に移り住んでいる。つまり引っ越しが多い。だからか極端に部屋に物が少ないのだ。部屋から全く生活感が感じられず、長くいると不安になってくるのだ。
そして新しい部屋は今まで以上に物がなかった。白っぽい狭い部屋の隅っこに寝袋がバサッと落ちていた。そしてその隣には、ティッシュ一箱とトイレットペーパーが袋入りで落ちていた。
……それだけだった。タニシさんは
「トイレットペーパーを枕にしてるんですよ」
と言った。
ブレイクした芸人がトイレットペーパーを枕に寝ているとは、ミニマリストにもほどがある。僕はホームレス取材をするが、彼らのほうがよっぽどたくさんの物を持っている。

この部屋の家賃は、東京にしては安かった。他の部屋も事故物件であるがゆえに割引されていたりもするだろうが、それでも5軒借りているとなると、それなりの額になるだろう。

「月の家賃は合計で20万円前後ですね」

都心部のタワーマンションに余裕で住めるじゃないか!! 現在はコロナの影響でなかなか足を運べない部屋もあるらしく、誰も住んでいない部屋に家賃を払っている状態になっているという。

タニシさんは実にストイックだと思う。
自分のお金で事故物件を借りて、そこに住み、起こったことを発信する。
なんでもありのオカルト業界の中では、実にケレン味のない実直な取材をしている。

そんなタニシさんの旅はもちろんストイックだ。『異界探訪記 恐い旅』ではひたすら心霊スポットや事故現場など恐い場所を回った。今回の旅もそのようなものなのだろうか?

「実は『死る旅』は僕が心霊スポットに飽きちゃった……というところから始まるんです。冒頭は『恐い旅』からの続きで、無理矢理に心霊スポットをめぐる旅をするのですが……。ただただ怪談を集めに行くことに虚しさを感じました」

タニシさんには前々から、心霊スポットや事故現場に『恐がりに行く』というのに、ずっと違和感を感じていたという。
死る旅』の第二話のタイトルはなんと
『心霊スポットに飽きちゃった? 自我崩壊、目的のない旅』
である。

「どうしても心霊スポットって同じ場所になりがちなんですよね。誰かがすでに取材していたら、僕はとたんにやる気がなくなってしまうんです。
たとえば、らむさんとも青木ヶ原樹海に行ってますよね。それはそれでとても刺激的な経験でしたけど、僕はらむさんに連れて行ってもらっているだけで、実際に書くなら僕が書くより、らむさんが書いたほうが面白いですよね?」

確かに僕はタニシさんと一緒に樹海に行ったことがある。タニシさんに
「どのような服で行ったらいいですか?」
と聞かれ
「登山ではないので、そこまで気張らないでもいいですよ」
と答えたら、本当に普段どおりの服で来たのでビックリした覚えがある。VANSのスニーカーは青木ヶ原樹海を出るときにはボロボロになっていた。

「誰かのネタを確認しに行くんじゃなくて、自分だけのネタを探さないとダメだと思うようになりました。
ずっと腑に落ちなかった気持ちを、腑に落とすために旅を続けている感じでした」

タニシさんはそんな気持ちで、100を超える死にまつわるスポットを回ったという。
そんな中で、全く知らなかった話を現場で知ったり、変な出来事が起きることがあったという。

「にしね・ザ・タイガーという後輩がいるのですが、彼はよく心霊スポットへ行く時についてきてくれたんです」

にしね・ザ・タイガーさんは、阪神タイガースと特撮ヒーローが大好きな、元引きこもりの芸人さんだという。

「にしねと一緒に行くと、すごい高い確率で何かが起きるんですよ」

事故物件での生放送では、にしねさんの持ってきた仮面ライダーのベルトが突然起動して音が鳴った。
大阪の源氏の滝では、にしねさんが取り憑かれたように急にすごいスピードで山に登っていき、山を削った人たちに怒りだした。

「奈良の廃神社に行った時には、鳥居をくぐった瞬間から急に、廃神社を修行場としていた玉姫教会の巫者 中井シゲノさんのことを延々とほめたたえはじめました」

この時の様子は動画が残っていて、見させてもらったのだが、普段はおとなしいにしねさんが、ハキハキとした口調で
「中井シゲノさんは~」
と何度も何度も話続けるのが、とても異様だった。

「にしねは、京都の伏見稲荷大社でもおかしくなったんですよ。にしねのスマホがまず『データ使用の警告』『データローミングオン』とか急にバグりだして、その後笑いながら駆け足でどんどん石段を駆け上がっていったんです。途中、にしねは石灯籠にお辞儀をしていたんですが、その時の記憶は全くないそうです。
実は玉姫教会は伏見稲荷大社の支部であり、密接な関係があったようです。そういう“つながり”って面白いですよね」

「にしねさんがなぜ取り憑かれるのか? シャーマン的な資質があるのか?」
という疑問が湧いてくる。
死る旅』にはさっちゃんというシャーマンも登場する。タニシさんは、にしね・ザ・タイガーと、さっちゃん、中井シゲノには共通点があるという。

「3人とも『前に出えへん』というのが似てるんです。中井シゲノもさっちゃんも、欲がないんですね。欲に走ったら、急に胡散臭くなって、本物じゃなくなんです」

タニシさんが、にしねさんに
「なぜ心霊スポットについてくるの?」
と聞いたことがあった。にしねさんは、
「年上のお兄さんに遊んでもらってる感じなんですよね~」
と答えたという。
動画配信に出て知名度を上げて売れるキッカケにしよう、などというお笑い芸人としては当たり前の欲は彼にはないようだ。

「にしねはよく
『僕は元々引きこもりだったので、0だったんですよね』
なんて語るんです。だから彼は“器”なんだなって思うんです。器的な人だから、すぐに取り憑かれてしまうのではないか? と仮定しました。
僕は神秘現象はなんでも信じるタイプではないのですが、『何か起こす人』はいるんだと思うようになりました」

タニシさんは、誰かの意図が入った怪談が嫌いだという。その意図に乗っかるのも嫌だ。言わばそれは『胡散臭い本物じゃない怪談』なのだろう。
だからタニシさんは、すでにある『怪談』をたしかめに行く旅ではなく、実際に行ってそこで、自分だけの体験をし、オリジナルのエピソードを得ようとしている。

「結局、安易な幽霊話とかではなくって

『死ぬってどういうことなんだろう?』

という本質的な話に興味が出てきてますね。これだけ孤独死で人が亡くなってるわけですし。この本は、生きるために死と向き合った僕の旅が綴られています」

事故物件に住む芸人が、死を見つめる旅路を綴る『死る旅』。
興味がある人は是非、読んでみてはいかがだろうか?