マイノリティのためのお役立ち情報&コミュニティ

“事故物件住みます芸人”松原タニシが一番怖かった“崖”とは? ~一人ぼっちダークツーリズムのススメ~

災害や戦争があった場所を観光することを、ダークツーリズムやブラックツーリズムなどと呼ぶ。
松原タニシさんの新著『死る旅』はまさに、死を見つめるダークツーリズムだと言える。

タニシさんは前作『異界探訪記 恐い旅』から数えると実にたくさんの場所に旅をしている。『死る旅』にはカラー写真のギャラリーコーナーがあり、よくもこんなにたくさんのスポットに足を運んだものだと驚いた。
そもそも松原タニシさんの活動の中心である「事故物件に住む」という行為も、考えようによってはダークツーリズムの一環であるとも思える。

 

前回に引き続き、タニシさんの新居である事故物件でお話を伺った。

「旅行は好きですね。これからも続けていきたいと思います。目的地はもちろんネガティブな場所ですね」

とタニシさんは当たり前のように答えた。僕もタニシさんと同様に、青木ヶ原樹海だとか、殺人現場とかに足繁く通うタイプなので、
「そうですよね~」
と同意した。

 

たがこれは一般的ではない。ポジティブな場所に旅行する人の方が圧倒的に多いだろう。

「明るい場所に旅行に行って
『こんなに楽しかったですよ!!』
って人に言う気はないですね。そんなことしたら、
『何楽しむために旅行に行ってんねん?』
って自分につっこんでしまいます(笑)」

 

仕事熱心とも言えるが、もっと根深いものを感じる。やはり、タニシさんは骨の髄までダークツーリズムが好きなんだろうと思う。

「知人に自動車を出してもらうこともありますが、1人で行くことが多いですね。1人の時は基本的にバスや電車を利用して移動します。原付免許は持っているので、沖縄ではレンタルバイクを借りて移動していました。
1人旅は気ままですけど、それ以上に怖い面もあります。ワンミスで命取りになる可能性も高いです。正直、女性は被害にもあいやすいので、やめておいたほうが良いのではないかな? と思います。行くとしたらしっかりした対策をしてから足を運んでください」

タニシさんいわく一人旅では、戦争関連の施設を巡るのがオススメだという。
友達どうしで行くとなかなか解説書などをちゃんと読まない。あんまり長く同じ場所にいると友達が退屈するのではないかと気を使い、観察も早めに切り上げたりする。
なによりお喋りや食事が楽しくて、なかなか戦争について考えられない。

「1人で行くと他にすることがないから集中して見ますよね。かつて戦場だった場所の知識をしっかり吸収すると
『エグい』
『かわいそう』
『つらい』
というような感情が自分の中に沸き立つのを感じます。たとえば『ひめゆりの塔』も、1人で行ってはじめて
『ここって、こういう場所なんだ』
などとしっかりと知ることができました」

 

そんな戦争遺構の中でも、タニシさんが特に怖いと思った場所は、沖縄県中頭郡読谷村にあるチビチリガマだという。ガマとは洞窟のことだ。

「沖縄の戦地をいろいろ回ったんですけど、正直全然怖くなかったんですよ。大勢が亡くなった摩文仁の丘も、ただただ広くて綺麗な場所で戦争の禍々しさは感じませんでした。そういう施設はそれはそれで大事だと思います。
ただ、チビチリガマだけはものすごい恐怖を感じたんです。なんというか、人の怖さがあるような気がしました」

 

チビチリガマは1945年の沖縄戦の際、村民が逃げ込むための防空壕として使われていた。
村民はアメリカ兵が投降を迫った際、
「アメリカ兵に殺されるくらいならいっそ……」
と集団自決を決行した。
防空壕に集まっているのは家族や顔見知りだ。
つまり親類縁者同士で殺し合った。
死亡者数は80人以上だと言われている。半分以上は子供だったという。
現代に生きている人には想像できないほど、悲惨な出来事だ。

「僕が怖いなと思うのは、集団自決があったことを1983年まで、生き残った人たちが黙っていたことなんです。近所の人たちだった、親戚だったりするわけで、言うに言えなかったんでしょうね。
ジッと黙ってすごした38年の重みってすごいなって思うんですよ……」

 

たまたま外部から来た人が事実を知り、情報は広がった。それからは逆に悲惨なできごとを公表しようということになった。チビチリガマには看板が建てられたり、像が設置されたりして、慰霊の場になった。

 

しかし2017年には十代の少年たちにより、内部が破壊されてしまった。
千羽鶴が引きちぎられ、器物は破壊され、遺骨が収められた場所もも荒らされた。

「そういう出来事があったためか、
『ここはめっちゃ大事な場所やねんぞ!!』
『無礼を働くのは許さないぞ!!』
というような念がこもっているのを感じました。すごい思いが強くて、その思いは千羽鶴の数の多さや、造形物などからも漂ってきていました。それをはからずも、恐ろしく感じてしまったんだと思います」

 

タニシさんは、自殺スポットにもたくさん足を運んでいる。怪談などでは
「自殺スポットに行くと、気持ちが引っ張られる」
というような話を耳にするが、タニシさんはそのような経験はなかっただろうか?

「自殺スポットとして有名な東尋坊に行きましたけど、正直全然自殺者の気持ちは分からなかったんですよね。確かに崖だから高くて怖いですけど、でもそれだけなんです。
それはたぶん僕に死ぬつもりがないからですね。死ぬつもりがない人間にとっては、東尋坊はただの落ちたら危ないだけの、ただの崖なんですよ。
ただ、単純に高くて怖いだけなら、和歌山県の三段壁の方が怖いんです」

東尋坊は高さ約25メートル。

三段壁の高さは、約5~60メートルで、単純に倍以上高い。三段壁は、夜に行くと自殺者を防止するセンサーが鳴っていてそれも怖い。

タニシさんは、様々な崖に足を運んでいるという。
沖縄県喜屋武岬、
和歌山県三段壁、
静岡県城ヶ崎海岸、
島根県日御碕、
福井県東尋坊、
長崎県壱岐島左京鼻。
ざっと数えただけで、6つもあげられる。まるで崖マニアである。
タニシさんにとって一番怖い崖はどこだったのだろうか?

「長崎県壱岐島の左京鼻ですね。ここが一番怖かったです!!」

左京鼻は陰陽師の後藤左京と龍造寺五世日峰昌和和尚が雨乞いの祈祷をした場所として知られている。しかし雨は振らず、後藤左京は断崖から身を投げよう、日峰昌和和尚が焼身自殺をしようとした時、大雨がふりはじめたと言われている。
たしかに生き死にがからんだ伝説ではあるが、比較的ハッピーエンドである。あまり怖くない。
ちなみに東尋坊は、悪僧東尋坊を酔わせて崖から海に放り込んだら、そこから49日海が大荒れした、というなかなか激しいエピソードがある。そうとう怖い。

「怖かったのはそういういわくの部分ではないですね。左京鼻はなだらかな下り坂なんです。どこまでが坂なんだろう? って進んで行くと、急にストン!! と崖になる。もちろん柵はありません。
しかも地面には芝生のような草が生えているんですね。これがツルツル滑るんですよ。歩いていくと
『わあ!! 止まらない!!』
ってなるんです。夜中に行ったから、本当に危なくて……とにかくめちゃくちゃ怖かったですね!!」

とタニシさんは笑顔で恐怖の理由を教えてくれた。

 

こうやっていわくのある場所や、自殺スポットへの旅話を聞いて、

「自分は絶対行きたくない!!」

と思った人はもちろんいるだろう。だが、

「私はちょっと遊びに行ってみたいかも?」

と思った人も多いのではないだろうか?

 

普段、意識することのない“死”を見つめる旅に出かけてみたいと思った人は『死る旅』を読んで欲しい。擬似的に死を知る旅を経験することができる。
もし行きたい場所が見つかったら、現地まで本を持って出かけるのもいいと思う。
タニシさんのガイドでダークツーリズムを満喫できるなんて最高ではないだろうか?