8050問題|福祉につながらない「ひきこもり」たち。母親の死を目の前に立ち尽くすことしかできなかった50代男性

そのほか

8050問題,食事する母子

筆者の住む地域の、教育相談所の電話・メール相談の中で多いものは、30代以上の成人した子どもを持つ親からのものだという。教育相談所というと、児童などの教育に困っている親が相談しに行く場所のように思える。筆者も、発達障害がある息子が小学校のときに、2年間、相談やカウンセリングで利用したことがある。

 

「あなたに必要な支援はこれですよ」と押し付けない程度に、他の福祉サービスや関わるべき医療機関を勧めてくれる。簡単にいうと、親切で、知識をくれる場所である。

 

教育相談所の相談者の中にはリピーターが多く、何年も相談を続けている親もいるという。子どもがどんどん成長して、成人してしまうため、30代以上の子どもを持つ親となってしまう。電話やメールで、福祉相談員と繋がっているだけでも、安心であるし心強い。教育相談所では、「自分のダメな育児を怒られるんじゃないか」と心配する人もいる。だが、怒られるどころか「お一人で子育てを頑張ってきたんですね」と労ってくれる相談員もいる。発達障害がある子どもに振り回されて、メンタルが弱っている親には、これが殺し文句として刺さってしまう。心地よい一刺しなので、ワンオペ育児で悩んでいる方は、ぜひ刺されに行って欲しい。

スマートフォン

 

逆に、いわゆる「8050問題」状態になっていたが、福祉と繋がらなかった、知人男性のケースをお伝えしたい。「8050問題」とは、80代の親が、50代の子どもの生活を支える家庭や、そこに派生する様々な問題を指す。将来の不安・扱いにくい子どもとの親子関係の悪化・経済的な問題などで、共倒れになりそうな深刻な状態にある家庭が多くある。ひきこもりの成人した子どもを、経済的に親が支えられる、裕福な家庭もある。

 

福祉と繋がって支援を受けたいか、そうでないかは、個人の自由選択だ。福祉と繋がらないことを、否定するものではないことを前提にお読みいただきたい。

 

知人は、Nさんという50代男性だ。幼いときから、母親と二人暮らしで、母親は洋服の縫製の仕事をしていた。アニメ「ド根性カエルの主人公」ひろしの母親のイメージといってもいい。母はよく働き、女手一つで、Nさんを育てた。

 

父親がいないことで、母親は何度か再婚を考えた。だが、子ども(Nさん)が気難しい子であるため諦めていた。Nさんは、コミュニケーションが苦手で、人と関わることがうまくできないタイプである。若いときから、雑談など、余計な話はしない人だった。

 

成人しても就職はせずに、内職程度の簡単な作業であるが、母親の仕事を手伝っていた。それで、就職しないでいることを許してもらっていたようだった。

続きを読む - 1 2 3 4 5

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});