「人を呪わば穴二つ」
といういかにも恐ろしいことわざがある。
人を呪い殺そうとする人には、自分にもそれ相応の報いが返ってきて
結果的に墓穴が2つ必要になる……という意味である。
意味は分かるが、呪いは不能犯であるから、いくら他人を呪ったって自分も相手も平気なはずだ。
ならば現代的には
「人を呪ったとて穴は1つもいらない」
と言えるかもしれない。
……と、ドライなことを言ったが、かくいう僕は、かつて人を呪ってえらい目にあったことがある。
今回はその顛末を書きたいと思う。
10年ほど前にある編集プロダクションの社長からひどい仕打ちを受けたことがあった。
そもそも、約束よりも安い金額しか支払われない、記事を勝手に再掲載して原稿料を払わない、など問題の多い会社だったのだが、まとまった量の仕事をもらえるので我慢をして受注していた。
ある日、その編集プロダクション内で暴力沙汰が起きた。暴力気質のある編集者が若手の編集者を殴った。殴られた編集者は会社に来なくなった。来なくなった編集者は僕の仕事の担当もしており、急にいなくなってしまったので僕の仕事がずいぶん滞ってしまった。
編集プロダクションの社長に
「平成の世の中で暴力沙汰ってありえないんじゃないか?」
と苦言を呈したところ、あっさりと僕が干された。
部下を殴った人間はとくにお咎めはなく、暴力に苦言をていした人間は罰を与える。
まことに理不尽だ。
その社長は日頃から気に食わないことがあると、社内の人間にはイジメを、外部の人間は干すなどして、相手を困らせることが多かった。パワハラで上下関係を叩きつけて言うことを聞かせる人間だ。
僕は当時、その会社経由で年収の半分くらいを稼いでいた。
ただその会社は前述した通り、割の悪い仕事の多い会社だった。だから我慢してまで今後も付き合っていくことはない、と判断した。
それで、すっかり縁を切った。
ただ僕の気持ちは、
「縁が切れてすっきり!!」
とはならなかった。
結局、すごい理不尽な干され方をされたのに、いっさいの反撃をしていないのだ。
縁を切って7~8ヶ月ほどで干される前よりも収入は増えたが、それでも干された年の年収はずいぶん下がった。
どうしたってイライラする。
正直、バットを持って出かけていって、映画『アンタッチャブル』のロバート・デ・ニーロよろしく、背後からボッコボコに殴ってやりたい気持ちだった。