精神病院に潜入取材をしたら出られなくなってしまったライターの話|『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』のボツになった話

そのほか

11月29日に『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房)という本を上梓させていただく。
ひたすら人間が怖い話を39話書いた。
今回は、編集者によってボツになってしまった一本を紹介したい。面白いと思ったら是非、本を買っていただきたい。

人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖 村田 らむ人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖

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「頭がおかしいふりをして、精神病院に入院しよう」
という企画を雑誌ですることになった。

 

俺はとにかく気が触れたフリをして、精神病院をいくつも回った。だがどこでも
「ではお薬を出しておきましょう」
と言われて帰されてしまった。

 

思い切って自分の肩を刃物で切っていって、狂っているというアピールしてみた。今考えてみると、本当にそこそこ狂っていたんだと思う。しかしそれでも入院はできず
「うちではちょっと面倒みきれないので大きな病院に行って下さい」
と追い出された。どうにも困ってしまい、何件かめの病院のカウンセリングの時に、
「もう死にたい気分です……」
とつぶやくと、医師の目の色が変わった。
「君、死にたいの? 死にたいと願う気持ちがあるの? それじゃあ入院できるように手続きするよ」
と一気に事態は動き出した。

 

ただ都内の精神科では病床に空きがなかったので、東京西部の山の中にある精神病院に入院することになった。

 

手続きを終えて、病棟に入るとそこはカオスな空間だった。

 

60歳くらいの男性が「キーン」と叫びながら目の前を走りぬけていった。石のように固まって口からよだれを垂らしている人。奇声を上げている人。俺はここに仲間入りするのかと思うと、心底不安になった。しかしここまで来てしまったら、引き返せない。

精神病院

手続きをすませた後、ベッドに案内された。俺が周りから聞こえる叫び声に怯えていると、薬を飲ませるから口を開けろと言われた。

 

看護師が喉の奥に薬を放り込む。

 

目の前で飲んで、口を開けるように言われる。飲んだふりをして薬を捨てたりさせないためだ。
俺は言われるまま薬を飲みこんだ。

 

数分後、俺の中の感情が死んでしまった。 老人の叫び声も、走り回る親父も、認識はできるのだが、見聞きしても
「ヤバい」
とか
「怖い」
とか感じないのだ。

 

「サケンデイル、ヒトガイル」
とカタカナで思う。

 

そして身体が圧倒的に気だるく、トイレに行きたいと思ってから立ち上がってトイレに行くまでに1時間もかかった。

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