本日は、某財閥系企業子会社の役員をしている金田さん(仮名・50歳)に障害者雇用の現状について伺った。
金田さんは食品系卸会社A社の営業部の役員だ。人事委員会(人事全般の方針を決定する組織体)のメンバーであり、プロパー社員代表として、親会社に物を申す立場でもある。そして、金田さんの親しい友人にはうつ病の人もおり、精神疾患への対応も比較的慣れているといえる。
A社は派遣社員も入れると530人弱、正社員だけで420人超の、会社法でいう「大会社」である。障害者雇用促進法では、従業員45.5人以上の民間企業は、全従業員に対する2.2%の障害者を雇用することが義務化された。単純計算すると、A社の場合、11.44人の障害者を雇用する義務がある。その人数を雇用できなければ、不足1人あたり月額5万円の罰金を支払うことになる。A社には現在、軽度障害者が2人勤務しており、10月以降にはもう2人採用する予定でいるが、今のところは罰金を支払い続けている。
障害者雇用対策について,厚生労働省,グラフ(図:厚生労働省 障害者雇用対策について https://www.mhlw.go.jp/content/000581102.pdf)
厚生労働省の発表によると2018年の民間企業の雇用障害者数は53万4,769.5人、対前年7.9%(3万8,974.5人)増と15年連続で増えている。実雇用率は2.05%と対前年0.08ポイント増となり、こちらは7年連続で増えている。法で義務化されても、人数を満たせていないのが現状だ。
【なぜ身体障害者ばかりが採用され、精神・発達障害者は採用されないのか】
率直に伺うとこんな答えが返ってきた。
「私は身近な人がうつ病になったことで精神疾患への対応の経験もあり、偏見は0とは言えませんが、少ないほうだと思います。身体障害者なら、できること・できないことが見えやすいですが、精神・発達障害者に関しては、その症状が理解できずどう接していいか分からないのが大きいと思います」
A社では障害者の採用にあたり、人事部から各事業部にどんな人材なのかがメールされてくるという。しかし、当然のことながら、障害により「できないこと」が書いてある。
部下にその条件を伝えて、何かできる仕事がないか聞いても、「ない」という答えが返ってくる。
「うちの部署は営業部といっても、パソコンに向かって仕事をする日が4日ほどあります。なので、パソコンを使える人なら、仕事を分解すれば、できる仕事は結構出てきます。部下たちには、障害者全体に対し面倒だという感情があると思います。なぜ、うちの部署で面倒ごとを引き受けなければいけないのかという気持ちがあるので、部下たちは積極的になりません」
金田さん自身に、採用したい気持ちがあっても、偏見は根強い。そして、障害者を採用した際に、直接、仕事の指導に当たるのは自分ではなく各担当者だ。そのため何らかの問題が発生した際に部下たちから不満の声が上がっても、説得できる自信は金田さんにもない。