今までは印画紙に焼いてアルバムに挟んでいた写真が、デジタル写真になりパソコンのフォルダに収められている。紙の貯金通帳が、スマートフォンのアプリになっている。それだけだという。では、一番の問題点はなんだろうか?
「デジタル遺品は“見えにくい”というのが一番の問題です。まず使っていない人から見たら、スマートフォンはナゾの道具でしょう。どうやって開いたらいいのか、何を操作したらいいか分かりません。開くことすらままならないでしょう。これが唯一にして最大の問題点です」逆に、視覚などが不自由な人が使用しているスマートフォンは、健常者にとってはナゾの道具になってしまう場合もある。どのようなサポート機能を使っているのか、わからないからだ。
「そして、まだデジタルが広がって四半世紀も経っていません。だから業界全体にノウハウが蓄積されていません。いざという時に誰も助けてくれない。法律でもサポートされていない、ということがたくさんあります」
遺品の問題で困るのは、遺された家族だ。死はいつ何時、誰に襲いかかるかは分からない。だから、あらかじめ自分たちで自衛対策を立てて置くほうが良い。具体的に言えば『見える化』しておく。
「僕が、デジタル遺品に関わるようになって10年になります。数多くの相談を受けてきましたが、8割は『パスワードが分からなくて開けない』というものでした。そしてそのうち9割が対象がスマートフォンでした」
スマートフォンのロックは、非常にセキュリティが固い。家族がキャリアに問い合わせても、パスワードなどは答えてくれない。何度も入力ミスをすると、中身が消えてしまうという機構があるスマートフォンもある。
アメリカでは、FBIがアップル社に対したびたび犯罪者が使用していたiPhoneのロックを開けるよう申請したが、アップルは事実上拒否している。「犯罪捜査目的でもあっても、プライバシー侵害につながる秘密の使い方は提供しない」という姿勢は、とても信頼がおけるが、遺された家族にとっては大きなダメージがある場合が多い。
例えば、LINE Payには100万円、PayPayには500万円貯めることができる。スマフォが開けないと、遺族が存在に気づくのは難しい。諦めて電話を解約すると、電話番号は3ヶ月ほどで再利用される。新たな契約者がLINEをはじめると、前の人のアカウントは消滅してしまう。たとえLINE Payに残高が残っていても初期化されてしまうのだ。このような形で、消えてしまったり、塩漬けされてしまった、遺産はかなりたくさんある。