スマイリーキクチさんは、太田プロ所属のお笑い芸人である。体育専門学校在籍時に友人と行ったパフォーマンスが評価され、芸人になるように薦められた。1993年に専門学校時代の友人と「ナイトシフト」というお笑いコンビを結成。コンビとして『GAHAHAキング 爆笑王決定戦』(テレビ朝日)に出演し、相方の芸能界引退によりコンビが解散したため、ピン芸人へ転向した。解散後はニコニコ笑いながら毒舌を吐くという芸風の漫談を続けてきた。「冬のソナタ」がブームとなった頃には、ペ・ヨンジュンに容姿が似ていたため、物真似もしていた。お笑い芸人として順風満帆とは言えないかもしれないが、それでも堅実に活動を続けてきた。
ただ、読者の皆さんにとってキクチさんは、お笑い芸人というより「インターネットでの誹謗中傷の被害者」というイメージが強いかもしれない。
あらためて説明すると、キクチさんは1998年頃より、インターネットの巨大掲示板2ちゃんねる(現5ちゃんねる)を中心として、「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の犯人グループの1人であるといった誹謗中傷を受けた。
1988年11月から1989年1月の間に起きた、「女子高生コンクリート詰め殺人事件」は、その残虐な犯行で世間を震撼させた。当時17歳だった被害者女性が、不良少年グループに拉致され、約40日間にわたって東京都足立区の加害者宅に監禁され、暴行・強姦を受け続け、集団リンチの末死亡。遺体をコンクリート詰めにされて遺棄されたというものだ。当時、少年法で保護された加害少年たちの名前は明かされず、インターネット上では、犯人が誰なのかという様々な憶測が飛び交った。スマイリーさんは「東京都足立区出身」で「犯人グループたちと同世代」という理由だけで、「強姦犯の人殺し」という汚名を着せられ、20年以上に渡り中傷され続けている。スマイリーさんは、著書「突然、僕は殺人犯にされた」でもその闘いの日々を書いている。
今回は、太田プロの会議室で、キクチさんにインターネットの誹謗中傷被害の過去と現在の話を伺った。取材時間より早く到着してしまった筆者を、明るい笑顔でとても優しく迎えてくださった。取材中も始終おだやかな口調で、「なぜ、こんな人が殺人鬼と書かれ続けるのか」と強い憤りを覚えた。
今でも中傷は続いているのか。その問いに「最近も書かれたばかりです」と自身のTwitterのアカウントを見せてくれた。スマートフォンには匿名の人物からのコメントが表示された。
この書き込みは2020年12月15日に投稿された。今年5月に、SNSでの誹謗中傷が原因で、自ら命を絶ったプロレスラー木村花さん(当時22歳)を悼む、キクチさんのTwitterへの投稿に対するリプライ(返信)だ。キクチさんの名前を揶揄し「キチク(鬼畜)」と書いている。