盗みに依存する窃盗症「クレプトマニア」からの脱却|648日目の闘い

障害者ルポインタビュー

マスクの女性

「クレプトマニア」、耳慣れない言葉だ。クレプトマニアとは、端的にいうと万引きや置き引き、スリなどの盗みがやめられない状態で依存症のひとつである。日本語では、窃盗症・病的窃盗といわれる。物を盗ることが目的ではなく、盗む行為そのものに依存し、再犯を繰り返す。

 

今回お話を伺った高橋悠さん(活動名)は、クレプトマニアの当事者で約2年程前まで万引きを日常的に繰り返していた。現在は寛解し、これまで万引きした商品の代金を覚えている限り返金。贖罪の意味も込め『万引きを未然に防ぐ』・『万引きの被害者を減らすため加害者を減らす』ことを目的とした情報発信を行っている。彼女は摂食障害の当事者でもある。クレプトマニアは、摂食障害と併存するケースが非常に高い。悠さんのクレプトマニア発症の引き金も摂食障害にある。

 

摂食障害からクレプトマニアを併発。治療に至るまでの道のり

 

「摂食障害を発症したのは中学校1年生の時です。思春期に入り、過剰に人の目が気になるようになりました」小学生の頃は体格が良く、親分肌でガキ大将的存在だったという。「身体が女性的に変化していくのに抵抗を感じ、中学に上がるタイミングでダイエットを始めました」当時は摂食障害という病名も広く知られておらず、自身も自分が摂食障害である自覚はなかったのだそう。食べては吐いての過食嘔吐が始まったのが中学1年生の12月。入学当初より20キロも体重が減少し入院するまでに。

 

「過食嘔吐は38歳になった現在も続いています。摂食障害はある意味食べ物への依存でもあります。食べては吐いてを繰り返すので、食べ物がなくなってしまったらという枯渇恐怖が常に付き纏います」大学卒業後、医療系の専門学校を経て就職。医療専門職の道へと進み、就職を機に一人暮らしを始める。しかし過酷な仕事環境に限界を感じ、4年で実家に戻る。一人暮らしをしている時も実家に帰ってからも食べること、食べ物を安く手に入れることが、頭から離れることはなかったと彼女は言う。

 

「何時にどこの店に行けば割引品が買える、そんなことで頭がいっぱいで、過食を中心に生活が回っていました」

異常な程に食費を節約する日々が30歳を過ぎても続き、いつの頃から”ズル”をするようになった。彼女の言うズルとは、値引きシールの貼り替えや、割引時間になる前の商品の確保。小さなズルを繰り返し食費を節約した。

マスクの女性

この頃彼女は、クレプトマニアという病気の存在を知る。摂食障害からクレプトマニアに至る症例は多く、摂食障害関連の書籍には万引きについての記載があるものも多い。書籍『彼女たちはなぜ万引きがやめられないのか?窃盗症という病』を目にし「自分はクレプトマニアに近づいている」と確信した。この異常なまでの節約思考がクレプトマニアへの入口だと気づいていながらも彼女はズルをやめることができなかった。そしてほんの些細なことがきっかけとなり万引きに手を染める。その時のことは今でも鮮明に覚えているという。

 

「その店は賞味期限当日の物は、販売しない方針の店でした。翌日が賞味期限の商品は売れ残ると廃棄されてしまうのだと思います」

どうせ廃棄になるのなら、値引きして欲しいと考えた彼女は、翌日賞味期限の商品を割引いてくれるようスタッフに交渉を持ちかける。けれど、値引きすることはできないと断られ、商品は持ち去られてしまう。

続きを読む - 1 2 3 4

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});