今回は「うらやましい孤独死」の著者である森田洋之医師にお話をうかがった。自らを「へんてこな医師」と名乗る森田氏。今日は急な往診が入った後の車中での取材だった。トレーナーにキャップというラフな格好の森田氏は、往診にもその服装で行っている。
森田氏は、1971年、横浜生まれ。一橋大学経済学部卒業後に、宮崎医科大学医学部に入学し直した「ヘンテコな医師」。宮崎県内で研修を修了し、2009年より財政破綻した北海道夕張市立診療所に勤務。現在は鹿児島県で「ひらやまのクリニック」を開業、研究・執筆・講演活動にも積極的に取り組んでいる。専門は在宅医療・地域医療・医療政策など。著書に『破綻からの奇蹟』『医療経済の嘘』『日本の医療の不都合な真実』などがある。
利用者さんが一番下だという介護施設の医師をトップにすえたヒエラルキー
現在、森田氏が鹿児島県で開業している「ひらやまのクリニック」には、ホームページはない。訪問診療だけで、外来診療はしていないのだろうか。
「いいえ、外来もありますが、おおっぴらに募集することはしません。なので、ホームページは公開しません。基本的に訪問専門と言ってもいいくらいなんだけど、厚生労働省のルールに当てはまっていません」
本当に身近な人だけに向けて、外来診療を受け付けている。厚生労働省は、訪問専門と名乗るには、95%以上が訪問診療じゃなければいけないというルールを設けている。しかし、今はほとんどの患者さんが訪問診療だという。
「今は本に出てくる『いろ葉』という小規模多機能の介護施設の利用者さんだけを診ています」
医院としては外来もおおっぴらに募集して、頼まれたら診察したほうが儲かるはずだ。それは森田氏の望む医療とは違うのだろうか。
「望む形ではないです。
人数は増やしたいと思っています。ただ普通の介護施設と『いろ葉』では全然レベルが違うんですね。
他の介護施設の何がイヤかっていうと、医師がトップで看護師がその下、その次に介護士、さらにその下に利用者さんがいるというピラミッドみたいなヒエラルキーがあるからです。
そういう理論で動いている介護施設がほとんどです。
となると、僕は1番トップに位置させられるわけですよね。そこにすえ続けられるのがイヤなんです」
今日もお爺ちゃん・お婆ちゃんの、膀胱炎か肺炎かの発熱で呼ばれた。肺炎といえば肺炎だが、もう90歳を超えている。何年かかけてだんだんと体力が落ちてきて、今は寝たきりで、言葉もないくらいの人だ。老衰のパターンだという。
「だけど、最期に熱が出ることなんかよくあるわけですよ。
じゃあその発熱は医療で解決できることなのかできないことなのかって、多くの場合はできないんですよね」
抗生剤の点滴はさっきしてきた。それで対処できる可能性も半分くらいはある。だけど、対処できない可能性も同じくらいある。
「僕はとりあえずそこまではやるけれど、それ以上の役割って、医療ではないじゃないですか。
50%くらい治るんだったら、僕の医療の範疇。だけど、50%はもう反応しないくらいの体力になってきているんだったら、それは長い人生に寄り添っていって、お看取りをしようという段階になってきているわけですよ」
そうなるとその部分は、『いろ葉』の介護の人たちが担ってくれる部分だ。