刑事ドラマやアニメを見ていると公安という言葉が出てくることがある。この場合、警察の公安部門を指すことが多い。名探偵コナンに登場する安室透や、サイコパスの常守朱も警察の公安部門に所属している。しかし、日本には、実は公安という組織が3つある。そのひとつが法務省の外局にあたる公安調査庁、通称公安庁だ。「そのくらい知っている」という方もいるだろう。では、公安庁が、何をしている組織なのかはご存知だろうか?「それも常識、知っていていて当然」なんて声も聞こえてきそうではあるが……。
「公安庁?何もしていませんよ。少なくとも私が在職していた35年間は、何もしていませんでした」そう声を上げるのは、公安庁で国際テロ対策を担当していた元調査官の西 道弘氏だ。
西さんは1982年に公安調査庁に入庁。共産党セクションを経て旧ソ連、中国共産主義勢力、イスラム教勢力ほか、国際テロ関連の情報解析業務にあたるなど、なんだが凄い経歴の持ち主だ。しかし、2016年キリスト教からイスラム教に改宗したことにより、上司からパワハラを受け鬱病を発症。2017年に公安調査庁を辞職した。現在は、フリーのジャーナリストとして活動している。
それにしても、公安庁が何もしていないとはどういうことか?今回のインタビューでは、あまり馴染みのない機関である公安庁が一体どういった活動を行っているのか、元ベテラン調査官にじっくりと伺うつもりだった。しかし、出鼻を挫かれる。
「本当に何もしていないんです。私に言わせれば、公安庁は国営のインチキセールスです。もしくは、国営のストーカー集団とでもいったところでしょうか」イキナリ爆弾を投下してくる西さん。流石、“愚直に巨悪とタブーに挑む”を標榜とする『紙の爆弾』に連載を持つだけのことはある。
「日本には破防法(破壊活動防止法)という法律があります。名前の通り、内乱や暴動など暴力主義的破壊行動を企てる団体に対し、活動制限や解散を命じられる法律です。これが施行された1952年に、破防法に該当すると思われる団体の調査を行う組織として発足したのが公安庁です。
しかしながら、日本で破防法が適用されたことは、これまでに只の一度もありません。坂本弁護士殺害事件や地下鉄サリン事件、あれだけ残虐なテロ活動を実行したオウム真理教にすら、破防法を適用することはできなかった。破防法は一歩間違えると日本国憲法に接触しかねない法律です。その為、破防法を適用するには審査が必要で、その審査は“公安審査委員会”に委ねられています。公安庁に決定権はありません」
なる程そういうことか。何もしていないというのは、何の成果も上げていないという意味らしい。何もしていないは言い過ぎにしても、確かに約70年の間成果を成していないとなると、そうも言いたくなるだろう。
「公安庁は、敗戦直後に設立された内務省の調査部の流れを組んだ機関です。正直、現代の日本でその存在意義はありません。時代錯誤もいいところです。今後の日本社会においても、公安庁が必要とされることはないでしょう」公安庁は基本的に情報収集機関であり、それ故、警察と違い逮捕権が無い。更には、活動内容をオープンにしないこと、格別な実績もないことから、不要な機関という意味合いで、霞が関の盲腸と揶揄されることもあるのだという。