奥平綾子(㈱おめめどう 代表)③ ~暮らしの支援を「数する」(毎日する)ことで楽に過ごせる~

インタビュー

重度から軽度まで、子供から大人まで対応する

自閉症・発達障害支援グッズ販売

㈱おめめどう

奥平綾子代表取締役(通称 ハルヤンネ)

 

 

田口 奥平さんもABATEACCHなど、様々な療育などをやった時期があったと聞いたのですが、そこにご自身が納得いく方法がなかったから「おめめどう」を立ち上げたのですか?

 

奥平 はい。ABAは幼稚園の頃、教育大学のゼミで受けました。言葉や方法が難しかったのと、当時のABAには視覚的支援は全くなくて大人が「これがあったらいいよね」というようなものを訓練していく(褒めて伸ばす)というものでした。そこに「本人がこうしたい」はなかったんです。なので、すごく違和感があって、自閉症という障害は治らないのだからこのままできないところ探しをしても、ダメだなと就学を機にやめてしまいます。その後、環境調整のためにTEACCHを取り入れていくのですが、選択活動が、当時は「飲み物」とか「出かけ先」といった枠のあるものしかなく、そうじゃなくて「暮らし全体を選んでいく」ことがいると気づいたこと(人権です)と当時のTEACCHには、こちらから示すスケジュールやルール説明、物理的構造化などの「理解のコミュニケーション」の手立てしかなかったのでAAC(拡大代替コミュニケーション)」での「表出のコミュニケーション」がいると思い離れていくいことにしました。それは、正解だったと思います。いくら偉い先生が話すから、海外から来た進んだものだからといって、自分の感じる違和感には正直になる方がいい。すると、後でどうなっていっても、自分で責任が取れるから。

 

田口 いくら偉い先生が何を言おうと、その先生が自分の子の生涯に責任を持ってくれるわけではないですからね。

 

奥平 はい。結局は親元に戻ります。そして、親から離れます。そういった、人生のビジョンを持つことがいるかなと思います。セラピールームやお教室だけで生きているのではないので。

 

田口 株式会社形式にした途端、公的機関からの講演の声がかからなくなったと聞きましたが私はそれを聞いて、福祉業界ってダメだなぁと思いました。この取材は㈱アニスピホールディングスわおんという障害者向けのグループホームの業態)のイベントの宣伝を兼ねてスタートしたものですが、やはり社長の藤田さんを営利だからと嫌う方は少なからずいます。社会福祉法人とかNPOの方は良く言わない方もいます。いいものを作るのには利益を出して、投資することも必要なのに福祉業界は営利を嫌いますね。そういった現状は、ハルさんが会社を立ち上げた頃と変わりましたか?

 

奥平 15年前は、会社法人は少なかったですね。ちょうど2003年発達障害支援センターが各県にできる話がありました。私は兵庫県の支援センターの支援員になる話があったのですが、結局無くなってしまいました。私は1999年から人前で視覚的支援や子育てのことなど話し始めたのですどこへ行って話しても、視覚的支援を始めてくれる人は少なかったのです。話しに行ってもちっともしてくれない。「あれは、奥平さんだから、ダダくんだから」「絵が下手だし」「文字読めないし」としゃんしゃん総会のようなものが多くて疲れてきていました。2003年は、その不毛さと発達障害支援センターの話がなくなったことなど、燃え尽き症候群になりかけました。父が肺がんで入院をしていたこともあって、介護の手伝いをしながら引き込もっていると、父が「ビジネスにして、対価をくださった人に奉仕したらいい。ボランティアでしてるから、愚痴が出るのや。仕事として対価が発生すると、こちらも真剣になるよ。お互いに真剣だからいいものになる」と言ってくれたんです。私が会社法人を選び、NPO法人にしなかったのは、複数の理事の意見をまとめて何かしたいわけではなく自分の考えを形にしたかったからです。ちょうど、その頃「一円起業」といって有限を1円で起業できる「会社法」があったのです。ベンチャーを応援するものでした。それを使って、それまで有限なら300万円いったものが1円でできたのです。もちろん、初期投資(事務所を借りる、パソコンやコピー機を備える法的な書類を作るなど)で、数百万円いりましたが。

 

そして、起業をしました。何とかごそごそやってきて6年後、お金を借りたくて法務局に行くと「オタク解散してはりますよ」と言われました。あの会社法は5年で終わるものだったのです。起業した95%が無くなって(廃業)していたそうで。「よく、残ってたね」とびっくりされました。それで、どうするかということになり合資か株式かと言われて、株式会社にしました。会社法人にした当初は「光とともに」の本のあとがきを書いた付き合いで、一冊目の『レイルマン』の表紙を戸部けいこ先生に描いてもらっていたことや光とともに」のドラマのスペシャルに出たりしたので「売名」とか言われていたみたいです。快く思われていない声には、耳を塞いでました。

 

「自分たちはボランティアでしてきたのに福祉で金儲けをするなんて」とも言われました。「自分たちは、親が集まって施設を作っている。しかも、重度の人から入れているのに、あなたは個人のお金儲けをして」みたいな。でもねえ、私は「見てるところが違う」とずっと思っていました。施設を作って、自分たちの仲間数人を楽にするというようなものではなくもっと、広く社会的な現象として、自閉症の子供たちや当事者さんそして、ご家族が楽になるようなことをしたいと意識していました。そうなるはずだとも。もちろん最初はぼんやりとしたものでしたが、グッズを開発し販売をしていくうちに、どんどんビジョンが見えてきました。正解だったと思います。どの活動が一番ではなく自分にとって「似合う帽子をかぶる」ことで、社会貢献をしたらいいんですよ。商売というのは、利益を上げて、それを循環させることで、成り立ちます。決して、自分だけが儲かるという結果にはならないんですよ。儲かった分を還元していくんです。そのシステムが私には居心地良かったです。それの経済の仕組みをご存じない方が悪く言われるんですよね。当時「批判はすべて嫉妬である」と佐々木正美先生から教わりました。おそらTEACCHプログラムを、日本に紹介したときにそれまでの既存の療育家からは猛烈な反発があったことは想像できます。私は、佐々木先生のその言葉を支えにしてきました。

 

「羨ましいから、批判するのだな」と。確かに、講師依頼は減りました。販売も含めての講演をお願いすると、販売可能な会場がないという理由でダメになることが多いですね。ビジネスにして、お金をもらうようになってからは、もちろん経営で悩みはいつもありますが、気持ちの上でも「してあげたのに」みたいなこちらの卑しい気持ちもなくなり、とても楽になりました。ハルネットなどで対応していると、おめめどうユーザーさんの水準は高いと思っています。対価を払う分、真剣です。私もその気持ちに応えようと思います。なので、改善率も、他の方法に比べて、はるかにいいと思っています。個人的な付き合いではないので、求められたときに真摯にお応えする、この関係はお互いの気を楽にします。

 

15年経って、今は、放課後等デイや就労支援事業所などに会社法人が名前を連ねています。私の時のように、批判されない時代になって、羨ましいですね。ただ、支援機器の分野には、会社法人は少ないのです。というのも、障害児者対象のグッズというのは、市場が大きくありません。これを「分母が小さい」と言います。なので、作ってもそれほど数でないんですよね。なので、なかなか商売にならないんです。そのため参入する人がとても少ないです。すると競争原理が働きませんから、いいものが生まれにくい。おめめどう」が会社法人として成り立ってきたのは、「小売」と「情報サービス」「講師業」と三つの柱があるからです。講演・セミナーでお話する、すると、グッズが売れますよね、その使い方や考え方を、相談業務やメルマガなどネットの情報サービスで後押しをする。そういうシステムができあがっているために、なんとか収益があるので継続していけました。小売だけでは、途中で投げ出していたかもしれませんね。15年前に始めて、他に同じような会社・ライバルが出てくるかなと思いましたがでてきませんでした。もちろん、別のスタイルで商いをされている方はいらっしゃいますがうちのような「三本の柱が立つ」のは、今もオンリーワン企業です。私の考えは、樋端さんが書かれていた松下幸之助さんの「水道哲学」です。いいものを安くたくさん売る。そうしたら、広く行きわたりますよね。すると、社会がかわっていきます。

 

私のテーマは「数」ですね。「数する」。メルマガも14年続けて、連続5,000本以上を書き更新中です。数書くと、見えるものがあるんです。例えば、1,000文字のコラムは、数えなくても毎朝1,000文字にまとまりますしネタも考えなくてもキーボードに指を置けば浮かんできます。ハルネットという相談業務も、15年させていただき、万単位で答えると相談者の「お子さんがこの年齢で、この事柄が起こるとこんな状態で、何が欠けていて」と分かっていきます。順列組み合わせなんです。ダダさんの支援も数していますから、なにがフィットするかが分かってきます。それをシステムにしていけば、日々の労力は減ります。すると、私が自分のことも楽しめる(仕事も続けられる)のです。私は特別な障害学の教育も受けてないし何の資格もありません。そんな凡人でも、数することで、ある程度やれるようになれるんです。つまり「継続だけが連れて行ってくれる場所がある」と私は知っています。なので、普通のお母さんが、自閉症の子供を抱えた時どうしていいか困ってしまうけれども、暮らしの支援を「数する」(毎日する)ことで楽に過ごせるようになることが分かる。子供に、何も特別な療育・訓練などをしなくてもです。その数するのに、フォーマットがいる。安くて、使いやすいものがいるんです。それが「おめめどう」グッズ。

 

おめめどう」では「手立てを習慣化する」と話します。習慣化をするには、歯磨きのように、時間・場所・道具を決めることです。そうして、毎日すると、しないことが気持ち悪くなりますよ。そうなるまでを手助けするための後押し。それが、メルマガハルネット やブログです。ブログは2005年から、FBは2010年から毎日何十の書き込みをしています。この業界で、個人でこれほど書き続けている・発信の多い人間は私以外にはいないには知らないですね。また、道具が決まっていると、自分じゃなくても他の人でもできるんです。ダダさんの学童期には、コミュニケーションアイテムとして当時、携帯やパソコンというものもできていました。でも、機械ものは、本人ができても、支援側の人や環境を選ぶんですよね。誰でもができない。パニックで、機械を壊すこともありましたしすると商売人の感覚として、「もったいない」。その方向はやめて、紙媒体(アナログ)に向かいます。そして、フォーマットのあるメモ帳にすることで、継続もできるし。また、他の場所や人でも容易に支援を繋げることができるようになりました。人を選ばない。これは、魅力であり、強さでもあります。そして、ライフラインが途絶えた時の非常時にも使えるんです。電気がいらないから。コスパ(費用対効果)が抜群です。これらは、何年もかけて、自分で経験してきた結果「得ている信念」です。だから、誰に何を言われようとも、「したことないやろ」ですよ。ええ、そこまでした人がいないんだもの。

 

奥平綾子(㈱おめめどう 代表)④ ~障害とは克服するものではなく、上手に付き合うもの~
に続く