奥平綾子(㈱おめめどう 代表)①~今、発達障害の分野や支援が大混乱な理由~

インタビュー

重度から軽度まで、子供から大人まで対応する

自閉症・発達障害支援グッズ販売

㈱おめめどう

奥平綾子代表取締役(通称 ハルヤンネ)

 

 

田口 私は奥平さんというと、変なことを言ったら、怒られちゃうんじゃないか。自分の育児をばっさり否定されちゃうんじゃないかとずっと怖くて近寄れませんでした(笑)取材前日の昨日も、頭の中が「ハルさん、ハルさん、ハルさん」となってしまって、緊張してよく眠れなかったほどです。周りのお母さんでも「怒られそうで怖い」と言っている人がいるので、そんなイメージが払しょくできるといいなと思っています。

 

奥平 あらま。これでも、昔よりは優しくなったと言われるんですよ〜。

「テキスト(文章)」は表情が見えないから、怖そうに感じますからね。それから、親支援(ピアカン)はしないと決めています。「本人支援」をしたいのです。でも本人支援をするには、親や支援者の気持ちはどうであれ、動いてもらわなければいけないでしょ。だから、厳しくとられる。きっと「聞きたくない(本当の)ことを聞かされる」「避けているものを見せられる」みたいな感じなんだと思います。「身に覚えのあることは耳が痛い」んですよ。でも、そうして、自分もお師匠さん(大西俊介@syunさん)に鍛えてもらってきました(笑)。

 

田口 それはありますね(笑)

私は1年半くらい前だったか、樋端先生と知り合いになった際、とにかく「おめめどうはすごい!」「ハルさんはすごい!」「視覚的支援は大切!」って言われ続けて「じゃあ買ってみるね」となって、「まずは巻カレがおススメ!」と言われたので「巻カレ」を購入しました。その時、息子は4歳くらいでした。その時に、私の父が自分の予定を書き込んだんですね。息子が「これは僕のカレンダーだ!じいじのじゃない!」と猛烈に怒ってそれで「子供でも、自分のスケジュール帳を誰かと共有するなんて嫌だよな」と当たり前のことに気づきました。

 

奥平 巻カレ」が自閉症や知的障害の人に分かりやすい(七曜日式は分かりにくい)と発見したことが、「おめめどう」のきっかけでもあります。最初の商品であり、一番の売れ筋商品です(横長カレンダーのシェア100%・笑)。本人に分かる道具を使えばいいんだと分かりました。そうなんだ、手段を変えれば、目的にたどり着ける(手段と目的を履き違えないと考えます)。それから、知的障害があっても、個人個人にカレンダーや手帳をと言い出したのは、「おめめどう」です。「巻カレ」が出てからの話ですね。それまでの研修会では聞いたことがなかったですね。

 

田口 なぜ七曜日式は分かりにくいんでしょう?

 

奥平 まず、7から、8に降りるというのが分からない。日にちが連続しているように感じない。それから、二軸で読まないといけないから。第二水曜とか第四土曜とか。これが難しいんです。日が途切れてしまうので、週またぎ、月またぎが把握できなくて段取りや心構えができない。そのために、予定の前日になって、できてないことでパニックになったり、こなすために目一杯エネルギーを出すので、あとで疲弊することも起こります。

 

田口 だから、一般のカレンダーはすっと入ってこないんですね。息子が必死に「あのカレンダー!!」といったので、びっくりしたんです。

 

奥平 知的障害がない場合は、学齢期だと「巻カレ」を見ると、カレンダーの意味はすぐに分かるようになります。すると、「段取り」をするようになるんですね。旅行は二日後だから、今のうちに準備しておこう。今週は歯医者があるからと「心構え」をしよう…そんな感じです。人って、明日が分かって、今日を生きるようになるんです。それが、来週が分かって、今週を生きる。来月が分かって、今月を生きる。そんな風に伸びていきます。成人なら、2ヶ月提示はいると思います。スケジュールも同じです。幼稚園の後半、小学校低学年あたりから、夕方にしたらいいから、朝はこれくらいでゲームをやめようとなっていきます。

先が見えて、今することを考える。だから、スケジュールのない子どもさんは、いつまで経っても、この段取りが身につかないことになります。

 

田口 小学校に上がるまでは息子の予定というと、保育園だけだったのであまり使っておらず、しまい込んでいました。でも、小学校に上がると、学校・学童・放デイと行く場所が増えたので本人が「あのカレンダー使いたい」と言い出し、また使いだしたところです。

 

奥平 よかったよかった。よく療育に連れ回しているのに、カレンダーもしてない親御さんがいて、本人辛いだろうなあと思って見ているのです。まだ、幼児期には、親の方の障害受容が難しいでしょうから療育でなんとか良くしたいと思うかもしれませんが、それならそれで「いつ何がある」を知らせることがいりますよ。暮らしの中で、「巻物カレンダー」や「スケジュール」も始めて欲しいですね。

 

田口 大人だって予定も分からず連れまわされたらつらいですもんね。

 

奥平 そうして、知らされず連れ回されたり、急に変更したりすること、関係性ができないから(むしろ壊れていく)から、後々大変です。口頭だけで幼児期育てられると、分からない状態にも限界がきて学童期には挑戦的で反抗的な状態になったり(それで、また障害名がつく)大人が言わないと動けないし(指示待ちになる)本人が段取りしようにも表出できないため尊重されずむしろ壊されちゃうし、ろくなことになりません。これは、理屈として分かっているので、誰にでも最初に話しています。「巻カレ」や「コミュメモ」を始められて、もう何千人も楽になられているので。そういう方法?は、日本では「おめめどう」しかないと思っています。同一アイテムで、何千規模の結果があるものです。

 

田口 はい。私は東京都在住ですが、「おめめどう」の話をしてもほとんどの支援者が知らないんですよ。必要なのに。支援者側が知らない。

 

奥平 支援機器は西高東低なのです。なので、関東は遅れている(特に東京は、療育中心なので。迷惑をかけてはいけないという考えがやはりあるため)と感じます。関西はグッズを使う習慣とか、それを受け入れる土壌があります。東海(愛知)は、子供にお金をかける地域性と、多様性を認める文化があります。といっても、どちらも「他よりマシ程度」ですけどね。それから、どの都道府県、どの行政区でも療育というか「派閥」「専門家」の強いところほど、アイテムは普及しません。それが、「利権」と言われるものだと思っています。

 

田口 取材を通じて、福祉の上では東京は別の国だし、ものすごく遅れているという話が何度も出ますが、奥平さんから見てもそうですか?

 

奥平 「マジカルトイボックス」さんという、肢体不自由系の団体が「おめめどう」を東京に呼んでくださいました。支援機器・支援グッズ関連のイベントで。でも、知的障害、自閉症等では、まず、呼ばれないですね。先日も情報福祉機器展で展示販売してきたのですが聴覚・視覚障害のためのアイテムって年々進歩しているんですよね。そういうアイテムがないと生活ができない。障害者自体も(もちろん周囲も)、暮らしにくさの改善を求めていくんです。でも知的障害・発達障害ではどちらかというと「こちらに適応しなさい」的な療育や「自閉症を知ってください」という啓発がメインとなり、本人の暮らしにくさの改善という点での支援機器利用はあまりされません。そうして、自分たちが作ってきたもの(療育や啓発)に、よそ者は困るみたいなところがあるんじゃないかなと思います。

 

田口 くだらない理由なんですね。

 

奥平 と、思うけどなあ。でも、私が、もし古くから団体をしてきて主の立場になっても同じようにするかもです。長く活動していき認められると、それなりのお金が降りてくるでしょうし。でも、「自分たちは従来通りでいいから」と考えていると、これからの人に、新しい考えやグッズが届きませんよね。自分らは損する(間違いを認めることも必要だし)かもしれないけど、次の世代を支えるようにしないといけないと思っています。私は、最近の社会の動向から「これからの若い人が楽になる」ようにしていかないとと思っています。将来的に、このままいけば、どんどん使える予算・人出・資源が減っていくので。

 

田口 ですよね。利用者側からしたら、派閥・利権とかどうでもいいですもん。いいものがあったら、利用したい。使いたいですよ。頭では視覚的支援の重要性はみな分かってるんですよね。たぶん。うちの場合は、息子から「僕は聞いてもよく分からないけど、書いてある方がよく分かる」と言われてじゃあ、今度は「コミュメモ」や「おはなしメモ」も一緒に購入しようと思いました。うちの場合は本人が視覚優位宣言をしたので、分かりやすかったです。やはりお子さんがより重度だったり知的障害を持っている親御さんからすると、必要性が分かりにくいのかなと思ったりしました。いかがでしょう?

 

奥平 視覚的支援といっても文字や紙が分からなくても、実物や写真、パッケージ、ジェスチャーなどいろんなものがあります。そこから始めていくと、少しずつ紙に描いてあるものでも、理解はしていくのですがその「本人に分かる情報を集める(探す、作る)作業」が、一等最初にくるんです。一等最初に「最大の難関」がやってくるので、それを越えられる人が少ないんですよ。本人に反応があるまで時間がかかるから続かない。人間は平等ではないなあ。神様はそう作っている。そこを超えることができる人が、次のステップにいけます。それが、分かっているから、その最初の部分を支えたいんですね。

本人に分かる情報さえ集めたら、フォーマット(「巻カレ」、「コミュメモ」)はもう、「おめめどう」にはあります。それに情報を乗せて繰り返す(継続する)だけで伝わっていくんです。

 

田口 確かに昔はうちの息子も絵の方が理解しやすかったと思います。そこを過ぎてから、僕は文字の方が分かりやすいと言い出しましたね。

 

奥平 絵や写真に文字を載せていきます。すると、文字だけでも、分かっていくものが増えていきます。もちろん、分からないものは略絵をつけたらいい。

私は「まず、文字に書いてみて、それで分かりそうにないなら、略絵をつけたら?」と話しています。これまでの逆ですよね。文字が先、絵があと(今は絵に文字をつけるという具合でされていると思います)。すると、写真が絵になり、シンボルになり、略絵になっても、文字は抜けません。多くの人が、絵や写真カードを見せて、分かりかけたら「もう、分かるみたい」と一足飛びに音声言語(おしゃべり)にしてしまうために視覚的な情報がなくなってしまいあとあとコミュニケーションが取れなくなり、失敗します。これを「いきなり音声言語」と話しています。

 

田口 ということは視覚的支援の重要性自体がまだ広まっていないんでしょうか?

 

奥平 それほどいるとは思っていないんでしょう。いつも、講演会のあと「こんなに書かなきゃ(見せなきゃ)いけないの?」とびっくりされます。でも、おしゃべりだけでは、ずれているから今、発達障害の分野や支援がうまくいってなくて、大混乱なのでしょ。じゃあ、分かるように、こちらが「書く」や「見せる」をしなきゃ。今の状況でうまくいってたら、アタシたち、こんな仕事してませんって(笑)

 

田口 それはそうですね(笑)私は4歳の頃にこういったものがあると「巻カレ」を見せておいてすごく良かったと思っています。必要になった時に、息子自身が思い出して、あれが欲しいと言ってくれたので。

 

奥平綾子(㈱おめめどう 代表)② ~ユーザーさんの暮らしは楽になっています~
に続く