精神科医 樋端佑樹⑥ ~発達障害は生き方次第で「強み」にもなれば「障害」にもなる~

インタビュー

精神科医 樋端 祐樹(といばな ゆうき)先生

ロングインタビュー

田口 先生は発達障害の親御さんにも

「あなたもそうだよ」と告げると言ってましたけ

怖くないんですか?

そこ、支援者たちが一番悩んでるところですが。

発達障害の家族性については、みんな思ってても言えない。

けど、傾向は持ってるし、親は聞く耳を持たないし

子供は追い込まれちゃってるし、どうしようとなってますよね。

 

樋端 怖くはないでしょ。

親もまず余裕があって、自由に生きていて

自分のことを好きで受け入れられていないと

自由すぎる子どもを虐待しちゃうかもしれない。

 

だから、親支援が一番大事な部分

 

自分が親に特性を説明するのは、親自身や祖父母などの

子どもと似ている特性や生き方を聞くとことから話すかなあ。

実子なら設計図は約半分同じなんだから。

親子の発達障害あるあるラボ」も「親も特性有り」がデフォルトです。

 

田口 どういう風に親御さんに伝えるのですか?

取材すると、大学病院のお医者さんでも

親に告げることを怖がっている人がいるのですが。

 

樋端 必ず障害の社会モデルから入りますかね。

障害とは支援の必要性で定義される相対的なもの。

どこに身を置くかで、どんな生き方をするかで

強みにもなれば障害にもなりますと。

だから職業とか自営の家系とか、公務員の家系とか

サラリーマンの家系みたい話から入る場合もありますね。

 

田口 難しいのですが、例えば「あなたの家系は自営業者が多いんですね。

実は自閉症の方って多いんですよね」みたいに話をもっていくってことですか?

 

樋端 ちょっと違うかな。

自営の生き方をできるかどうかは、時代や国にもよるしね。

 

でも、おじいちゃんも、自由人だったとか、好きなことばっかりしていたとか。

必ずご先祖様に似た人が見つかる。

 

凸凹で特性があっても、その形のまま社会の中で

どこかで何かをして楽に楽しく生きていければそれで良し。

二次障害を予防することが一番大事。

 

田口 すごくマイルドですね。

それなら受け入れられるかも。

「お祖父ちゃんも趣味人だったでしょ?

あなたもですよね。この子も同じですよ」

みたいな感じ?

 

樋端 例えば、私のじいちゃんは眼科医だったけど教授と喧嘩して

(論文は祖母がとりなして手伝って仕上げたそう)

結局開業して、友達少なかったけど踊りで友達作って

繁盛したら怒り散らして患者減らして

陶芸とか文筆とか趣味に生きてた人だったし。

祖母も英語出来ないけどコミュニケーションは得意で

友人と海外旅行とかよく行っていたし

茶道や書道とか多趣味だったわ。

父方もそんな感じ。

「あのご先祖様なら仕方ないね」という感じで。

 

田口 発達障害の方は余暇に生きた方が幸せ?

 

樋端 仕事は自分を抑えて

他人の価値観で動かなきゃいけないことも多いからね。

趣味なら文句をいわれずに自由にやれる。

こだわり保存の法則(信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。博士

本田秀夫先生)を考えても

余暇活動ファーストです。

趣味だったら下手でもいいわけだし

評価されなくてもいい。

楽しければ。

趣味の世界などで、存分にこだわれる部分をもっていれば

世間で多少の理不尽さはスルーできるかもしれない。

 

ただ好きなことして生きるために「オープンに自閉」するために

できれば「働くふり」をすることはお勧めしますね。

それは絶対に嫌なことじゃなくて、苦にならず出来ることで。

好きなことを仕事にしなくてもいいけど

得意なことでね。

こだわりがないところのほうがいい。

もちろん好きなこと、こだわりたいこと、得意なこと

求められていることが重なって仕事にできれば最高だけど

こだわりが強すぎて仕事にならない場合もあるしねぇ。

 

田口 いますね!

ASDが強すぎると協働するのは難しいですよね。

 

樋端 そそ、物好きなパトロンを見つけて

「先生の作品をいつまでも待ちます。気の済むまで作ってください。

生活は保証します」くらいまでなればいいけどね。

ある程度では妥協できないと、特に組織の中では苦しい。

 

田口 先生はイタリアのブランドの話とか好きそう。

イタリア人はなぜブランド開発が上手かというと

「職人をいつまでも待とう、育てよう」っていう文化があるからなんですって。

 

樋端 いや、ブランドにはあまり興味がないかなあ。

イタリアの精神科医のバザーリアとか好きやけど。

“自由こそ治療だ”と精神科病院無くした人。

イタリアは自営がめちゃ多いし、ファミリーの結束強そうやね。

 

田口 イタリア人は何年でも欲しいバッグのために待つんだって。

だから、職人が育つ。

いいブランドができる。

 

樋端 イタリア人にブランディング戦略なんてあるの?

 

田口 イタリア人のブランド戦略は

「価値あるものは待ってろよ!」なんですよ。

日本人はすぐに量産するでしょ。

 

樋端 確かに、日本にはフェラーリはないなー。

 

田口 でしょう?

イタリアブランドは素敵なものが多いでしょ。

あれは、「価値あるものは待てよ」だからこそ。

 

樋端 物語もあるよね。

ただ、発達障害診療はブランドじゃ困るから、待たせずに

どんどん対話して必要な手立てをいれていく水道哲学(松下幸之助)

で行きたいけどね。

だから「おめめどう」推しなんです。

 

田口 診察はね。

けど、名人が作った一点物の時計、3年待ち。

欲しくならないですか?

 

樋端 そんな貴重なものでも無くすから、欲しくはならない。

 

田口 無くすんだ(笑)

フェラーリは大きいから無くさないでしょ。

いかがですか?

 

樋端 まだカルテが手書きだった頃、研修医の間で

万年筆でカルテを書くのが流行って、自分も粋がってモンブランの万年筆とか買ったし

プレゼントもされたけど、2度無くして懲りた。

ジェットストリームのボールペンを100本買うかな。

フェラーリも事故ったら修理費も大変そう。

 

田口 無くすし、事故るんだ(笑)

ADHDだから(笑)

 

樋端 だから物は実用本位です。

アップルは好きですけどね。

 

戻るけど、これから貧しくなる日本は

それぞれが自由に気ままに生きている

インドやイタリアみたいな文化の国を目指すのがいいかなと思います。

そしたら発達障害の人も、うんと楽なんじゃないですかね。

 

田口 目指しましょう!

インドとかイタリアみたいな空気!(笑)

 

 

 

※内容は取材当時(2019年8月)