精神科医 樋端佑樹⑤ ~必要だからこそ淘汰されなかった発達障害の形質~

インタビュー

精神科医 樋端 祐樹(といばな ゆうき)先生の

ロングインタビュー

 

田口 ㈱アニスピホールディングスの藤田社長の取材で

「人とは話せなくても、動物とは話せる人がいる」という話が出たのですが

それはなぜ?

そして、犬や猫と暮らすことによるセラピー効果って本当ですか?

 

樋端 チューニングがその辺に合ってるからでしょうね。

イルカセラピーやホースセラピーなどもありますよね。

ASDの人には地球や植物、動物と話せているんじゃないかとういくらいの人もいるし。

自分も植物や鳥が好きで、ちょっとした森でも植物や昆虫

鳥などで色んなことを感じられて楽しめます。

 

でも上には上がいる。

有名な自閉症当事者のティンプルグランディンさんなんかも

アニマルマインドを持っていて、それを活かして動物行動学者として大成しているし。

 

あと、ある有機農法農家の人は畑に行くと野菜たちが

呼びかけてきて何を求めているかがうるさくて仕方ないと言っていました。

村田 沙耶香さんの芥川賞を受賞した小説の「コンビニ人間」は

コンビニ自体が語りかけてくるとかそんな感じですね。

 

 

あと、エンパシーが強いというか、エスパーなんじゃないかというくらい

ノンバーバルな情報が入りすぎちゃう人もいる。

分かり過ぎちゃうのも苦しいよね。

 

田口 原始時代、人はもっと野菜や動物と会話していたのかもしれませんね。

だからこそ、自閉スペクトラム症は淘汰されなかったのかも。

必要なかったら、歴史の中で、淘汰されてしまったはずですよね。

 

樋端 そうだと思います。

人類が子孫に累々と伝えていくものに、生物の歴史を伝える遺伝子レベルの流れと

教育などを通じて人間社会の文化を伝える流れの2つの流れがあります。

表層の文化レベルの流れよりも、基底の遺伝子に刻まれたものが強く現れて

今の人間社会で器用に立ち振る舞えないのが発達障害ですから。

 

田口 ちょっと難しいのですが、生物の歴史ってどういう意味ですか?

 

樋端 生命の誕生から、生き物としての歴史が続いてきています。

その中で毒々しい色の生き物を警戒するとか、紐みたいなものを怖がるとかというのは

本能的に引き継がれてきた形質(特性)です。

そういった本能が淘汰されずに、ずっと現れ続けるというのは

人類として必要な形質だったということです。

が、そういった特性が今、その人が生きている環境に合わずに強く出ると

病気や障害ということになる。

進化心理学とかもちょっとしたブームですが

この辺の話も盛り込んだ「ホモサピエンス全史」とか面白かった。

学校もああいうのを教科書にして学べばいいのにね。

 

 

 

田口 私は「第2回発達障害あるあるラボ公開トークライブin しおじり

に登壇した際に

「人の気持ちが分からなくて、占っているうちに占い師になってしまった」

という話をしましたが、本当に人の気持ちは難しい(笑)

占ってみて、タロットカードを見て「自分に恋してる」とか出ると

びっくりしてしまう。

態度からは全然分からないから(笑)

 

樋端 気持ちにしても人の気持ちどころか

まず自分の気持ちも気づかなかったりしますよね。

 

自閉スペクトラム症の人は、見えているものは見えすぎているけど

見えないものは無いのと同じ。

外部情報は入りすぎる一方で

相対的に内部感覚(疲れや身体反応からの感情など)をとらえるのが下手だから

自分の身体や心のニーズが分かりにくい。

 

だから、自分の感情を上手く捉えられない

アレキシサイミア(失感情)みたいになってる人もいる。

疲れたっていう感覚が分からず、疲れたときには疲れ果ててという人もいる。

だから、不登校なんかもそうですけど、いったん引きこもって

価値観のシャワーを浴びせられる場所から自閉して、外部刺激を遮断して

ゆるめて、身体をやすめ、好きなことをして

自分の内部感覚を探るところから出発するのが必要な場合もあります。

 

田口 私は昔は過労で倒れるまで疲れてると分からないし

何で悲しいかよく分からなかったりしてました。

「涙が出ないんだけど」と医師に相談したことあります!!

私、ひきこもっても全くおかしくなかったんですね。

 

樋端 まあ、今は自分のことをオープンにすることでコミュニカティブだけど

外部刺激は自分で適切にコントロール出来ていて

他人やツールに頼るところは堂々と頼って

明るく自閉できている状態なんじゃない?

 

田口 私は周りの人から、活発なひきこもりと呼ばれてます(笑)

そういうことか。

自閉症、ひきこもりというとマイナスなイメージがあるけど

自閉は決して悪い面だけじゃないんですね。

 

樋端 だいたい「autism」に自閉という訳語が、悪いよね。

本来、自分主義とか、我道を行くとかそういうニュアンス。

マイペース、マイワールドとか。

わがままからネガティブなニュアンスを取り去った感じかな。

 

田口 マイワールド好きで何が悪いんでしょうね。

「自由に生きたらええやん」と思う。

自分の選択次第なのにね

定型発達と言われる人たちは逆に、自閉しなくて疲れないんですかねぇ。

私、自分の時間がなかったらストレス過多で爆発します

 

樋端 定型的な発達の人は、多数派向けの環境で

自分を抑えて周りに合わせるのが苦痛じゃないから、そんなにしんどくないかも。

それでも、自由に生きていない人は自由に生きている人に対して

このやろうと思うのでしょう。

自分が直接の被害を受けている訳でもないのに

迫害してみたりしてね。

「ずるいは辛い」ですよ。

 

※内容は取材当時(2019年9月)