精神科医 樋端 祐樹(といばな ゆうき)先生
ロングインタビュー
田口 私は上村さんの取材で思ったけれど
あれだけ排除された歴史を持つ人のリカバリーが簡単にいくわけがないですね。
そこに至る長い歴史があるんですよね。
樋端 そういう経験をすると、目の前に現れた人が
「みんな」の代表(トラウマの対象の代理)になってしまい
今まで自分が受けてきた理不尽な体験すべてを
目の前の人にぶつけることになる。
突然、ぶつけられた人は、理不尽に感じて
付き合いきれないと離れていってしまうからね。お互いに苦しいですよね。
田口 樋端先生ご自身は自己肯定感をどうアップしたんですか?
樋端 幸いあまり自己肯定感は毀損されてなかったかな。
好奇心、知識欲は旺盛だったから、試験でのミスは多かったけ
試験勉強はそれなりに出来ていたし。
先生もいいところを見てくれる人が多かったし、はぐれ仲間の友人もいた。
忘れ物なんかも多かったけど
隣のクラスの数少ない友人と体操着の貸し借りとかもできていたし。
あとは高校時代くらいから、親からとっとと離れられたのも良かったかな。
田口 先生の親御さんはあまり理解がなかった?
樋端 まあ、両親ともに医者で忙しかったから
適度に放っとかれたのが良かったかなと思う。
思えば双方とも自営の家系で、祖父母とか親戚にも趣味人が多いし。
「好きに生きればええやん」という価値観は共有されていたかな。
医者にならなくてもきっと同じようなことやっていたと思うよ。
田口 私は学生の頃、爆音で音楽を流しながらでないと勉強ができなかったのですが。
一定数そういう人がいると読んだのですが、それはなぜですか?
樋端 それは感覚が鈍いから刺激をたくさん入れて
覚醒を上げているのかもしれませんね。
田口 だから、爆音でも平気なの?
むしろ集中できたりするの?
樋端 ぴょんぴょん跳ねたりぶらぶら揺すってたりする自閉症の方もいるでしょ。
過敏すぎて情報として入らなくなると鈍感になる。
鈍感と思っていても表面が逸れると敏感な面が顔を出したりする。
むしろ音の変化、特に突発的な大きな音が苦手という人はいますね。
田口 突発的な音は大嫌いです。
映画も新作を観に行かないのはそれでです。
いきなり音が大きくなるのがすごく嫌。
私はグレーゾーンなのですが
先生と話していたら「私、割と生きづらいのかな」と思ってきました(笑)
よく普通に生活してるなと。
樋端 感覚に関してはしっかり注目して
手当していけば楽になる人は多いよ。
言語でのアプローチだけではなく
マニュアルセラピーや感覚統合法など活用などの
身体アプローチは洗練されるべきやねと思う。
自閉スペクトラム症の人は
様々な感覚器(五感+固有受容覚、内部感覚)で刺激が入りやすいところと
入りにくいところがアンバランスに混在しているから。
映画も感覚に配慮したセンサリーフレンドリー上映とかもありますし
ショッピングセンターでのクワイエットアワーみたいなものも
広まってくるんじゃないですかね。
ノイズキャンセリングのイヤホンとか、ヘッドフォンで楽になる人もいる。
メガネみたく補聴器を調整して使う時代になると思う。
まだ研究段階だけど補聴器をカスタマイズしたのを使って
すごく楽になって生活が広がった人います。
田口 割と「道具に頼るな」派支援者って多いですが、どう思いますか?
私は頼れる道具はどんどん頼れと思うのですが。
樋端 私は人ではなく、まずはツールを自助具として活用しましょう派です。
これはコミュメモなどのツールを開発して市販している
曰くASD に視覚的支援をしないのは
脳性麻痺の子に車椅子は絶対使わせないみたいな感じと同じですよね。
意味が分からない。
田口 支援する人が見つからない確率とその道具がなくなる確率では
どう考えても人頼りの方が、リスクが高いですよね?
樋端 そうそう。
特にツールを用いたコミュニケーション支援をして
対話を成立させることが、最小の労力で最大の効果をあげられる介入だと思う。
周囲だけで、なんでこんな行動をするのか、何に困っているのかと頭ひねっているより
まず本人に聞けと思いますもの。
丁寧にコミュニケーション支援すれば、本人が表出できることも多い。
田口 道具否定派は、根性論で障害がどうにかなると思ってるんですかね?
樋端 そういう人でも、多分メガネだとそういうこと言わないのにね。
視覚的支援や、読字や書字障害に、タブレット端末を使わせるとかだと
特別扱いはできませんと言われてしまう。
田口 何度その例えを出して、関係者を説得したか。
何でそんな簡単なことが分からないのかが分からないですね。
樋端 分からないでしょうね。
自分はあまり困らないから想像できない。
でも、そういう人相手でも「コミュメモ」とかだと形があるから合理的配慮として求めやすい。
音声言語でバーっと言われてもわからないので
これ使って丁寧に説明して下さいという形の支援を求め
本人にとって分かる環境を引き継いでいける。
※内容は取材当時(2019年9月)