【レビュー】消えていく家族の顔 ~現役ヘルパーが描く認知症患者の生活~【書評】

お役立ちコラム

今日は

「消えていく家族の顔 ~現役ヘルパーが描く認知症患者の生活~」 (バンブーコミックス エッセイセレクション) 吉田美紀子著  Kindle版 竹書房をご紹介する。

 

著者の吉田美紀子さんは「介護職なら食いっぱぐれがない」という理由で、2013年に介護職員初任者研修の資格を取得し、現在、ヘルパーとして7年目だ。介護職と漫画家のダブルワークをしているという珍しい経歴の持ち主。

 

厚生労働省によると、2017年度の要介護(要支援)認定者数は約641万人いると言われ、40代の私にとり、とても身近な問題だ。

(厚生労働省 平成29年度 介護保険事業状況報告(年報)のポイントhttps://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/17/dl/h29_point.pdf

 

この漫画の主人公たちは、支援者であるヘルパーではない。認知症を抱える人々だ。吉田さんは特養老人ホームに勤務しているうちに、介護される側の視点で漫画を描くようになった。

 

私自身が特養老人ホームでヘルパーとして働いていた経験があるが、忙しい業務の中で、徘徊・せん妄・幻覚や暴力などの「行為」に対応することが目的となり、その心を想像してみる余裕を失っていたと思う。著者の吉田さんは障害者支援もしているが、認知症の老人も障害者も、その「行為」をするのには、何かしらの原因や本人の気持ちがある。日々の生活に追われ、私たちはそのことを忘れてしまいがちだ。

 

©吉田美紀子/竹書房

 

とても暖かいタッチの絵なのだが、自分のことが分からなくなる、自分の周りの人のことを忘れてしまう、不安と恐怖、孤独が伝わってくる。このシーンで怒鳴っているのは、自分の娘なのだが、アルツハイマー型認知症を患っている西村さん(80歳)にとっては、いつも怒っている「怖い人」だ。同時に、尊敬していた親、自分のパートナーが自分のことを忘れてしまう悲しみも伝わってくる。

 

だけど、西村さんの「もやもやしている頭の中」は常にはっきりしないわけではない。

「バカになってごめんね」

と母から謝られる気持ち、そして、もやもやしている西村さんの気持ちの両方が切ない。お互いに大切な相手だからこそ、介護は苦しくなる。そう思う。

 

認知症というと、高齢者のことを思い浮かべるが、本書には若年性の認知症を患った佐藤さん(58歳)のケースも出てくる。若年性認知症とは、65歳未満で発症する認知症のことをいうが、58歳と言えばまだ働き盛りの年齢だ。58歳で発症した佐藤さんは

「オレは…まだ働ける…」「会社に…行きたい」

と妻に訴える。

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