「一般の発達障害の方と違って、WAIS(大人の知能検査)の凹凸はそこまでありませんでした。ですが、言語性IQ(言語理解・ワーキングメモリ)はどちらも100点。動作性IQ(知覚推理・処理速度)が70点台なので、全検査IQ が85点と低い数値でした。なので、人と同じ仕事をしても、人の2倍時間がかかってしまう。どこの会社で仕事をしても迷惑をかけてしまい続きませんでした。だったら、障害者枠で就労したいと思って、検査を受けました」
彼女が受けた大人の知能検査「WAIS-IV」は
・全検査IQ(下記4つの合計)
・言語理解(言葉の認識・理解、興味の偏り等)
・知覚推理(1を知ったら10を知れるか)
・ワーキングメモリ(一時的に情報を記憶・処理する能力)
・処理速度(問題の処理スピード)
を見るもので、どの数値も平均が100点になっている。
彼女は「1を知ったら10を知ること」が難しく、問題の処理スピードが遅い。そのため、仕事を早くこなすことが難しいという検査結果だった。
そして、ADHD(注意欠陥多動性障害)もあるため、ミスも多い。規則や決まり事の多い会社勤めは、みきさんにとって難しかった。
「診断を受けた時はお医者さんに、なぜ今まで気づかなかったのかと言われました。昔は発達障害という考え方自体がなかったし、母がおおらかな人だったので『個性だと思っていた』と言われました。だけど、学校では叱られてばかりの中、不登校になっても何も言わなかった母に救われた面もあります」
学校でも、家庭でも叱られていたら、彼女は完全に居場所を失っていただろう。
彼女の今の悩みは上記の特性によるケガが多いことだという。
「普通に生活していてもしょっちゅうケガをします。『目で見て物をとらえる速度』が遅いので、部屋の中でも家具にぶつかってしまう。ハトが飛んで来たら、普通はよけられるじゃないですか。私はそれができないので、顔面にハトがぶつかって驚いたこともあります」
机が目の前にあっても、とっさによけることができない。生傷がたえない。
今まででした一番のケガは、部屋の畳から立ち上がるときに、ひざを強打したことだ。そのときには、じん帯を損傷し、半月板がはずれてしまった。医師からは「一生、車椅子になるかもしれない」と言われる。幸いにも、手術が成功し、今も歩けている。だが、入院2か月、リハビリ半年の大けがだった。ADHD(注意欠陥多動性障害)もある彼女は、他のことを考えていると、赤信号を無視してしまうこともざらだ。ケガなく生きていくだけでも苦労がある。しかし、取材中に彼女と話しても、どこにでもいる40代女性にしか見えない。分かりにくい障害・見えにくい障害なので、周囲の理解を得るのが難しい。
だが、フリーランスのライターとして、一人娘を育てあげた。仕事が遅くミスも多い彼女は人の1.5倍、ときには一日20時間働いた。年収300万円ほど稼いできたという。母子家庭手当や子ども手当などを入れたら、充分に生活できる年収だ。
そんな彼女が自分の障害を語る口調が明るいのは、経済的に自立できているからという面は大きいだろう。