発達障害の彼女の世界観 ~1回ごとにリセットされてしまう人間関係~

障害者ルポ

「あくまでも私の場合は」と聡明な彼女は前置きをして、自身が40年間感じてきた周囲の人との“感覚のズレ”を語ってくれた。発達障害の人のイメージの一つとして、謝らない、言い訳が多いというものがある。
「ADHDの傾向が強い私の頭の中は、いつも高速回転しているんです。ごめんと言う前に、高速で、そこに至った経緯、今後の改善策などを3日分くらいは考えて、タイムループをしているような感覚ですね。何かミスをしたときに、すぐに謝らなくてはいけないことは、定型発達寄りの長男を見て学んでいます。何て自然に謝れるんだろうと感心します」
いわゆる定型発達と言われる側の人間は、どうやったら人と円滑にコミュニケーションが取れるかを幼少期に教わるでもなく、自然と身に着けていく。だけど、彼女は長男から学ばなければ分からないという。彼女が言うには、高速回転で色々考えているうちに、謝るタイミングを逃すけれど、例えば遅刻してしまったのなら、頭の中では3日経っていると感じるほど高速で、色々考えているので、謝る前に疲れ切ってしまうという。

 

「なので、責められると、こんなに謝っているのに(実際は謝っていないけれど、頭の中では何千回も謝っている)もう許してくれてもいいじゃないかという気分になってしまいます。私は口には出しませんが、言い訳が多いと感じるのは、発達障害者は相手に対し語りかけているのではなく、ただ自分の思考が口からダダ洩れているだけだと思いますよ。私は口に出さずに頭の中で思考し続けているだけで、口に出してしまう気持ちもよく分かります」
知人のADHD男性も、何かミスをしたときに、反省していることはその様子から伝わる。しかし、ごめんと謝ってくれたことは、筆者が本当に怒った一回きりだ。彼も頭の中では高速回転で、善後策やそこに至った経緯などを考えているうちに謝ることを忘れてしまうのだろうか。そう考えると憎めない。

 

「あと、身近にいる発達障害の人が些細な嘘をついてしまい、人間関係がこじれて会社を首になってしまったことがあるのですが、私は彼の気持ちが分かるんです。『このミスをしたのは君だよね?』と聞かれて、咄嗟に『自分ではないです』と答えて、結果的に嘘をついてしまったんです。でも、彼は恐らく自分がミスしたことは分かっていて、瞬時に『自分ではない』と自分の『こうであったらいいな』という『希望』を答えてしまっただけだと思います。『希望』という思考が口からダダ洩れてしまった」
話を盛るタイプ、その都度、言っていることが変わるタイプの人は、サービス精神プラス「こういう理由だったらかっこいいな」「こうだったら面白いな」と思いついたことを瞬時に口に出してしまうだけ。思考が口からダダ漏れしてしまってるだけだと彼女は推測する。この感覚を彼女から言語化されて、初めて理解ができた。知人男性も話を盛るタイプなのだが、そこに人を騙そうという悪意や傷つけようという意地の悪さは感じないのだ。「思考のダダ漏れ」「サービス精神」なのだと思うと納得がいく。

 

「だって、その嘘をついたことで得するどころか損をするじゃないですか。信用を失うのだから。発達障害者のつく嘘って人をだまそうとしてるのではなく、単に頭の中で考えていることを口に出してしまっているだけだと思う」と彼女は笑った。確かにそうなのだ。一般的に人が嘘をつくときは、自分の不利な状況を有利にしたいときではないだろうか。発達障害者の人の嘘は、自分にとって一つも得にならない上に、すぐにバレてしまうよう短絡的な内容だということがままある。

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