HIVウイルスの感染者が残された日々を過ごすホスピス ~タイ国のエイズ寺に“死体”が展示してある「優しい」理由~

2018年に、タイに取材旅行に行った。
タイの北部の街ロッブリーに、「死体が展示してある博物館」があると聞いて、足を運ぶことにした。目的地は、パバナプというお寺だった。ガイドが運転する車に乗りバンコックからひたすら北に進んで行く。市内は交通量も多いがしばらく走るとすぐに田舎になる。3時間以上ひたすら走る。車窓から見える畑に見飽きた頃、やっと目的地に着いた。敷地内に入ると、大きい文字でHIV+やAIDSなどと看板が出されているのが目についた。


「なんで、エイズ?」と疑問に思っていると、ガイドに「とりあえず、まずは寺院を参拝しましょう」と言われた。頭にクエスチョンマークを浮かべたまま、自動車から降りる。想像以上に立派なお寺だった。まずはかなり急な階段を上らなければならない。階段には灯篭を持つ人形がズラリと設置されていた。人形の上をピョンピョン何かが飛び回っていた。
「この地域は猿が多くて有名なんです。帽子やアクセサリーを盗んでいく猿もいるので気をつけてください!!」ガイドに言われて、慌てて帽子やら何やらをかばんにしまった。


階段の上には、青空のもと、大きな白い仏像が設置されていた。その横を乳の張った大きい野良犬がフラフラと歩いている。そこから、またしばらく登ってやっと寺院が現れた。日本の地味な色彩の寺とは違い、赤と金で塗られたきらびやかな建物だった。日本では派手すぎるが、タイのサンサンと太陽が照りつける中に建つ寺院は、ごく自然に見えた。


寺院の中には座禅を組む僧侶がいて、僧侶の周りにはたくさんの供物が積まれていた。施設の周りには、日本の寺ではあまり見ない派手な像が並んでいた。ただ、少し歩くと近代的なビルが建っているのが見えた。実は取材のアポイントメントは取っていたので職員に伝えると、細身の女性が現れガイドしてくれることになった。

建物の入り口部分には大小の犬がだらりと寝ていた。そっとまたいで中に入る。一階部分は広いフロアにズラリとベッドが並んでいた。半分くらいのベッドには人がいてダラダラとすごしている。
「ここにいる人達はHIVウイルスに感染しています。このホスピスで、残された日々を過ごしています」と、女性が教えてくれた。また、女性は「私も、感染しています」と言った。ボランティアとして働いているそうだ。 室内にクーラーはなかったが、大きな扇風機で風が送り込まれていて、それだけでずいぶん快適だった。ベッドで過ごしていた20代の男性に話を聞いた。HIVに感染したことは、とても残念だが、この施設自体は楽しくて不満はないという。

「今は100人以上の方がこの施設にいます。入居者は基本的に、無料で絶命するまでこの施設に住み続けることができます」と言った。先にも語ったが、全ては寄付金で賄われている。募金箱にはたくさんの紙幣が入っていた。寄付するために、この施設まで来る人も多かった。もちろん寺に参詣する人も多いが、この施設にある『生の博物館』を見に来る人も多いという。つまり冒頭で書いた「死体が展示してある博物館」だ。博物館の前には、たくさんの人形が並べられていた。病的でグロテスクな形をしている。

説明書きを読むと「亡くなった人の遺骨を粉々に砕いて、それをロウに混ぜこんだ物で制作している」という。衝撃的な材料である。館内に入ると、明るく、風通しが良かった。ジメッと暗い、お化け屋敷のような雰囲気ではなくホッとした。館内にはやっぱり、犬がいてダラダラと過ごしていた。ケージがあり、なかにはミイラが入っていた。ミイラにしたというより、放置しておいたらミイラになってしまったという雰囲気だった。

ガラスケースには赤ちゃんのミイラが二体展示してあった。母子感染で亡くなった子供だという。おそらく身分が高かったであろう人の写真の後ろには、全身の骨格が堂々と飾られていた。逆側の入り口にはガラス張りのショーケースが二台あり中にはミイラがあった。大柄な男性のミイラの保存状態は悪く粉をふいていた。「こちらはカッティングボーイです」とミイラを指差して言った。

胸が不自然な形でひしゃげている。どうやら整形手術で胸を膨らませた跡のようだ。男性器は見えなかったが、切断しているそうだ。つまり“カッティング”ボーイなのだ。タイはいわゆるレディーボーイがたくさんいる。ゲイの性風俗はエイズの温床になっている。立派な仏像が設置されていたが、その周りには大きな白い袋がたくさん積まれていた。それらは全て亡くなった方の遺骨だという。その量を見るだけで、いかにこの施設に頼り、この施設で亡くなった人が多いか分かった。

実際に死体を目にすると、ずっとエイズを身近に感じられた。死体を展示するというのは、日本にはあまりないが、だが根っこの部分には生に対する尊重があると思う。だが昨今、主にヨーロッパの人たちからのクレームが来ることがあるという。不適切だから、展示をやめろという圧力をかける場合もある。自分の嫌なことは許せないという、エゴを感じる。
この施設は、完全にボランティアでエイズ患者を救済している。つまり人が来なくなったら、それだけ収入が減り厳しくなる。この施設が潰れるということは、遠回しの殺人行為だとも言えるだろう。