聞こえているのに聞き取れない?|APD(聴覚情報処理障害)の YouTuber笑歩さんに聞いてみた


画 こ〜ちゃん
たとえば、複数人で会話をしていると誰が喋っているのか、どの話を聞けばいいのかわからなくなってしまう。静かな場所では聞き取れるのにBGMがかかっていたり、騒音がある場所だと上手く話を聞き取ることができない。こんな経験はなかろうか?
APD(聴覚情報処理障害)は、聴力は通常であっても日常の様々なシーンで、聞き取りにくさが生じる障害だ。一言でいうと、音として声は聞こえているのに、言葉として理解するのが難しい。

モデルでYouTuberの笑歩(F)さんは、APDの当事者であり、まだ広く知られるところではないこの障害について、多方面から発信している。
某日、東京都江戸川区篠崎にあるサードプレイスカフェ「ごちゃまぜcafeメム」にて、笑歩さんが運営するYouTubeチャンネル、「笑歩APDチャンネル」の撮影が行われるとの情報をキャッチ!撮影の様子を見学させていただくことに。撮影後には笑歩さんと、この日のゲストのなみしさんにお話を伺った。
APDに興味のある方、特にAPDの症状に心当たりのある方、近しい人がAPDかもしれないと思い至った方にはぜひご一読いただきたい。

ゲストのなみしさんは手話を用いて音楽を奏でるアーティスト、「サインパフォーマー」だ。
音を聴くだけではなく、目で聴く・目で観る音の世界を、聴こえる人達にもっと届けたい想いを発信。東京近郊を中心に全国各地で手話を使ったパフォーマンスを披露する他、YouTubeでの動画配信も行っている。
ちなみに、この日の撮影は緊急事態宣言以前に行ったものでYouTube・インタビューでの撮影時以外はマスクを着用、手洗いうがい消毒を済ませたうえで行われた。
気になる撮影の内容は「コンサータ」について。既にご存知の方も多いだろうが、コンサータはADHDの治療薬である。APDの情報を発信するチャンネルで、なぜコンサータを取りあげるのか。疑問に思われた方も少なくはないかもしれない。実はAPDと発達障害の併存率は53%と高く、このことは、近年注目されるところとなっている。
なみしさんもAPDの診断が下ったことがきっかけとなり、発達障害であることが判明したひとりだ。また、笑歩さんもASDの当事者であり、「笑歩APDチャンネル」ではAPDを中心に発達障害全般の情報も発信している。

撮影終了後、自身がAPDであることを気づいたきっかけ、診断に至るまで、ご自身のことについてなど伺った。
笑歩「学生の頃は教科書を見て先生の話を聞いてテストを受ける。そういったレーンがあるじゃないですか。でも社会に出るとそういうレーンがなくて、フリートークが多い。私の場合はそこで気づきました。学生時代も友人から『話、聞いてないよね?』と指摘されることが度々あって。違和感は感じていましたが、それが確信に変わったのは、社会に出て働くようになってからです」
なみし「私が子どもの頃は、発達障害はあまり知られていませんでした。APDは今でも殆ど知られていない障害です。自分の中に発達障害やAPDという概念がなかったので、自分が努力していない、自分が聞こうとしていないから、聞けないのだと思っていました。周りの人もそう感じていたと思います」
社会に出てから割りに早い段階で、聞き取り困難に気づいた笑歩さん。一方、なみしさんが聞き取り困難に気づいたのは比較的最近のことだ。
なみし「本気で自分がバカだから、人の話が理解できないのだと思っていました。仕事柄、支障が出る場面が少なかったのも関係しているかもしれません」
なみしさんは現在、サインパフォーマーとして活動する傍ら、ライブハウスの運営に携わっている。さらには、男性ダンスボーカルユニットのマネージャーも務めるなど多忙を極める。
なみし「おかしいなと感じたのは、初めて事務職の仕事を経験をした時です。スピード感が求められる職場で。雑音が多い環境でもありました」
ざわざわと雑音のある中で、スピーディーに進められていく会話についていくことができず、何度も聞き返してしまう。大層気まずい思いをしたそうだ。
笑歩さんも、なみしさんも職場で支障が出たことにより、自身の聞き取り困難を自覚する。
笑歩さんは耳鼻科で検査を受けるも聴覚には異常がなく、明確な診断がつくことはなかった。しかし違和感が拭えず、インターネットで検索してみたところAPDにいきつく。そして、APDの見識のある病院へ。なみしさんもインターネットでAPDの情報を得たうえで病院を受診した。
その後、笑歩さんはAPDであること以外にも、当時の仕事を自分には合わないと感じYouTuberに転身。なみしさんも事務職は退職。当時から携わっていたライブハウスの運営とアーティスト・マネージャー業に力を注ぐことに。
笑歩「福祉施設で働いていたのですが、早番・日勤とバラつきのある勤務形態が私には合いませんでした。ASDの特性的なものもあるのかもしれません。生活のリズムが乱れるのがキツくて、夫に当たることが増えました。これはダメだなと思い退職することを決めました」
退職後、すぐにYouTubeでの発信を始めたという笑歩さんに、なぜ、YouTuberという道を選んだのか尋ねてみる。
笑歩「APDはまだまだ認知度の低い障害です。私と同じようにこの障害で困りごとを抱えている人が多くいるかもしれない。ならば、そうした人たちに届くように情報を発信していきたいと思いました」
元々モデルとして映像の世界にいたこともあり、YouTubeを主な発信源にすることに。
笑歩「リアルタイムでドラマを見ていると、聞き取れなくても話は進んでしまいます。でも、YouTubeなら話す速度を変えたり、聞き逃したら戻すこともできる。YouTubeはAPDと相性の良いコンテンツだと思います」

サインパフォーマーということもあってか、なみしさんはとにかく身振り手振りが大きい。
やはり聞こえづらいため、手話を覚えたのだろうか?
なみし「子どもの頃は、自分に聞き取り困難があるとは気づいていなかったので。聞こえづらいから手話を覚えたというわけではありません。でも、APDであることが判明してから知り合った方には『APDだから手話を勉強しの?』と聞かれることは多いですね。
手話を学び始めたのは9歳の頃です。うちは父がミュージシャンというのもあって。興味を持ったことは、なんでも経験させてもらえる恵まれた環境でした。週6で習い事をして、それこそ、ピアノとか水泳とか習い事の定番は全て網羅したと思います。
手話を始めたきっかけは、聞こえない人と喋りたいというのもありましたが、『ひとつは誰もやっていないことをやってみたら?』と両親に言われて。それなら手話を覚えたいと思い、本やTVを見て独学で勉強しました」

誰でも自由に利用することができる聴覚情報処理障害(APD)マーク
お二人に共通するのは、APDという症状を知らなかったため、症状に気づけなかったこと。症状について自力で調べて診断に至ったこと。APDは非常に認知度が低く、聴覚検査でも異常が出ないため、見過ごされることが少なくはないそうだ。しかも、未だ治療法が確立されておらず、障害が判明しても改善へと繋がる治療が受けられるわけでもない。
しかし、自分で症状を把握し対処法を知っていると知っていないのでは、暮らしやすさも格段に変わってくる。笑歩さんの動画では、補聴器やノイズキャンセルといったアイテムのレビューも公開している。
終わりにAPDの方と接するとき、どのような配慮があれば望ましいか聞いてみた。
笑歩「ゆっくり喋ってほしいです。それから話に目的がないと理解できないので、先に目的を言ってくれるとわかりやすいです。わかりやすく簡素に。私の場合、ASDの特性的にも結論ありきで話していただけるとありがたいですね」
なみし「APDの聞き取りづらさは、ワーキングメモリの働きとも関係しているのではないかと考えられています。一度にいくつものことを記憶しておくことが難しい。ですから、仕事の指示や重要なことは口頭での説明だけでなく、視覚で確認できるモノを残していただけると助かります」
聞こえているのに聞き取れない。声を言葉として理解できない。日本のAPD人口は極めて低い。しかし、APD自体の認知度が低いことにより、診断に繋がりにくい側面があるのだろう。
聞き取り困難に悩まされている方、APDの症状に覚えのある方、ぜひ一度、笑歩さんの動画を視聴してみてほしい。大変わかりやすく、NHKでも取り上げられている。
また、笑歩さんはYouTubeで情報を配信する他、LINEにてAPDについて個別で質問に答えている。相談してみるのもいいかもしれない。

今回、お話を伺ったなみしさんは、今秋手話パフォーマーだけを集めたライブイベントを東京都内にて開催予定だ。
また、近年、手話で歌うことの楽しさを知りたいという方が増え、手話パフォーマンスの個別レッスンも行っている。興味のある方は下記メールにてご連絡を。
sign.734.performer@gmail.com
なみしさんには、ADHDについてもインタビューさせていただいた。インタビューの様子は、また後日ご紹介しよう。