精神的疾患や知的障がいを抱えながら路上で生きるホームレスたちの実情。福祉からこぼれてしまった人たち。

障害者ルポコラムそのほか

ホームレスと障害

では、都市周辺に住んでいれば一度は見たことがあるだろう、周囲に悪臭を放つホームレスは、なぜあのようになってしまったのか。ホームレスを取材してきた僕の答えは、彼らは脳か心に何かしらの障害や疾患を抱えているからではないだろうか、というものだ。

 

 

こういった人の多くは、声をかけても、会話の受け答えができない。また受け答えができたとしても、支離滅裂なことをいう人も多い。たとえば、上野公園にいた全身ボロボロの服を着た70代後半に見えるホームレスは、「自分は四国の会社の社長をやっている。人材を求めて上野に来た。なかなか人が見つからないから困っている。よかったら、あんた働くか?」と真顔で僕をスカウトしてきた。ホームレスは取材に対して軽度な噓をついたりホラを吹いたりする人が少なくはない。しかし、後日、同一人物に話を聞いた際も、同じ内容の話をしていた。どうやら、本気でそう信じ込んでいるのだ。ボロボロの身なりでファストフード店から廃棄されたポテトを食べている自分と、社長である自分が、矛盾せ ずに同居しているのがとても不思議だった。

 

こういった人は、認知症や統合失調症といった精神的疾患を抱えたり、アルコール依存症が進んで幻覚を見る離脱症状などが出ていたりする可能性が非常に高いと推測できる。これは僕の憶測だけではない。日本においてはこの手の話はタブー視され、無視されてきたため、長らく調査も行なわれていなかった。しかし、2009年、野宿生活者の支援をする精神科医の森川すいめいが東京・池袋で168人のホームレスを対象に行なった調査によれば、そのうち1015%の人が精神障害を抱えている疑いがあり、19%の人がアルコール依存症と判断された。

 

さらに同調査ではIQが70未満の人が34%もいたという結果も出ている。ウェスクラー式の知能検査(WAIS―III)によれば、IQ70未満は「精神遅滞」と診断され、知的障害がある判定基準のひとつとなる。出現割合は2・2%とされているため、森川の調査の34%という数字がいかに高いかわかるだろう。

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