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精神的疾患や知的障がいを抱えながら路上で生きるホームレスたちの実情。福祉からこぼれてしまった人たち。

ホームレスの数は年々減っている。国はホームレスゼロ計画を立てており、年々減っている。僕はホームレスについて20年以上取材してきた。その取材の集大成いえる本、『ホームレス消滅』(幻冬舎新書)を528日に刊行した。

 

 

ただ確かに、ホームレスはゼロに向かって減少しているように見えるが、しかしいまだに路上生活をしている人がいるのも事実だ。彼らの中には非常に汚い身なりをしていたり、奇行に走ったりする人もいる。そのことに非常に腹を立てる人もいるし、暴行さわぎに発展することもある。だが、彼らの多くは、障がいを抱えていると言われている。以下は、『ホームレス消滅』からの抜粋である。

 

ボロボロの服を着た臭いホームレス

ホームレスについて、「汚い」「臭い」というイメージを持っている人は多いだろう。「ボロボロの服を着ていて、近くに行くとひどく臭う」たしかに、街中や電車の中で、そういうホームレスを見かけることがある。ホームレス自身も、30・8%の人が清潔に保つことができないことに困っているという(ホームレスの実態に関する全国調査[以下・生活実態調査])。

 

僕が取材した限りでは、ホームレスの圧倒的多数は、普通の身なりで臭いもキツくない。公衆トイレの洗面台を利用し、カミソリで毎日ヒゲを剃っている人もたくさんいる。髪は伸ばし放題のドレッドヘアという印象があるかもしれないが、多くの人は無料でヘアカットをしてくれるボランティア団体を利用する。フリーランスの僕なんかよりも、身なりに気を配っているわけだ。

 

これは、ホームレスが、廃品回収以外にも、建設日雇い、転売業者が転売する品物やチケットを買うための「並び」、街中での看板持ちといった仕事を請け負うこととも関係しているだろう。あまりに汚い身なりだと、日雇いの手配師のワゴン車にも乗せてもらえず、仕事がもらえないのだ。仕事が欲しければ、ある程度清潔にしておかなければならない。なお、都市部の駅近くで、雑誌「ビッグイシュー」を路上で掲げて売っているホームレスを目撃したことがある人も少なくないだろう。あの仕事についている人については、身なりはかなり清潔でなければ商売にならない。

 

しかも、一度ひどく汚れてしまうと、銭湯やサウナなどの入浴施設にも立ち入りを拒否される。以前、雑誌の企画でお世話になった不衛生だったホームレスの男性と銭湯に行ったことがあったのだが、立て続けに断られた。数軒回って、お願いし、やっと入れてもらった。しかし、番頭に「身体をしっかり洗ってから湯船に入ってください」と強くいわれた。

 

ただし、身体からすえた臭いを周囲に撒き散らしているホームレスもいる。たとえば、2000年前後には、西武池袋線の池袋駅の改札近くにボロボロな服を着たホームレスが毎日座っていた。当時、僕は池袋駅をよく利用していたのだが、彼の髪やヒゲは伸びっぱなしで、衣服には穴が開いていた。しかも、たまに靴を脱いで足の指にこびりついている垢を取っていた。その時は、鼻が曲がるほどの強烈な臭いが、辺りに漂った。 口元を押さえて走り去るOLもいた。

 

また2005年、高田馬場駅の戸山口の近くにもボロボロな服を着たホームレスがいた。彼のズボンは股の間が破れていた。駅前に彼が立っていると、あからさまにペニスが見えている時があり、みんな顔をしかめて横を通り過ぎていた。彼自身に悪意があったのかどうかはわからないが、「絶対、知ってて露出しているニヤニヤ笑って気持ち悪い! いなくなってほしい」といった類のことを女性がいっているのを、何度か耳にした。

 

このような人は今でも見かけることがある。2019年春にも、中野駅の北口でボロボロの衣服を着た推定70代のホームレスが、異臭を撒き散らしながら通行人が食べているたこ焼きを恵んでもらおうとしていたのを目撃している。彼はヨダレが始終口から出ており、 駅近くのベンチで座っている男性のジーンズにそれを垂らしてしまい、舌打ちされていた。 案の定、誰も彼に食べ物を与える人はおらず、諦めたのか、駅とは逆の方向に去っていった。

 

このようなホームレスは悪目立ちするため、皆の中で「ホームレスは汚い」「ホームレスは臭い」というイメージが定着してしまうのだ。しかも、この中には、攻撃的な奇声をあげたり、ゴミを周囲に撒き散らしたりするなど、迷惑行為を頻繁にする人も一定数おり、「ホームレスは怖い」「ホームレスは迷惑」といったイメージまで持たれてしまう。

 

ホームレスと障害

では、都市周辺に住んでいれば一度は見たことがあるだろう、周囲に悪臭を放つホームレスは、なぜあのようになってしまったのか。ホームレスを取材してきた僕の答えは、彼らは脳か心に何かしらの障害や疾患を抱えているからではないだろうか、というものだ。

 

 

こういった人の多くは、声をかけても、会話の受け答えができない。また受け答えができたとしても、支離滅裂なことをいう人も多い。たとえば、上野公園にいた全身ボロボロの服を着た70代後半に見えるホームレスは、「自分は四国の会社の社長をやっている。人材を求めて上野に来た。なかなか人が見つからないから困っている。よかったら、あんた働くか?」と真顔で僕をスカウトしてきた。ホームレスは取材に対して軽度な噓をついたりホラを吹いたりする人が少なくはない。しかし、後日、同一人物に話を聞いた際も、同じ内容の話をしていた。どうやら、本気でそう信じ込んでいるのだ。ボロボロの身なりでファストフード店から廃棄されたポテトを食べている自分と、社長である自分が、矛盾せ ずに同居しているのがとても不思議だった。

 

こういった人は、認知症や統合失調症といった精神的疾患を抱えたり、アルコール依存症が進んで幻覚を見る離脱症状などが出ていたりする可能性が非常に高いと推測できる。これは僕の憶測だけではない。日本においてはこの手の話はタブー視され、無視されてきたため、長らく調査も行なわれていなかった。しかし、2009年、野宿生活者の支援をする精神科医の森川すいめいが東京・池袋で168人のホームレスを対象に行なった調査によれば、そのうち1015%の人が精神障害を抱えている疑いがあり、19%の人がアルコール依存症と判断された。

 

さらに同調査ではIQが70未満の人が34%もいたという結果も出ている。ウェスクラー式の知能検査(WAIS―III)によれば、IQ70未満は「精神遅滞」と診断され、知的障害がある判定基準のひとつとなる。出現割合は2・2%とされているため、森川の調査の34%という数字がいかに高いかわかるだろう。

 

同じような調査結果は他にもある。2014年、全日本民医連の精神医療委員会が研究者とともに行なった名古屋市内の路上生活者114人の精神保健調査でも、対象者の34%に知的障害があり、 42%に統合失調症やアルコール依存症など精神的疾患があることがわかっている。つまり、ホームレスの少なくない人が、精神的疾患や知的障害を抱えているというのだ。しかも、こういったホームレスの中には、特別支援学級に通った経験もなく、障害者手帳を持っていない人も多い。生活実態調査によれば、ホームレスの中で、障害者手帳を持っている人は1・6%、以前に持っていたがなくした人が1・3%と、合わせても2・9%しかいない。つまり、可視化されていない障害者がたくさんいるのだ。そんな中で、 仕事もなかなか得られず、自力で生活していくのもままならない。日常会話もできず、不衛生で体臭がきつければ、ホームレスの仲間もできない。ホームレスの中でも、孤立してしまうのだ。

 

なお、国・自治体が行なうホームレスのアンケート結果を本章(※本書の第1章のこと)では多く引用しているが、調査員がコミュニケーションの難しいこのようなホームレスにアクセスしているのだろうか。もし調査から溢れていたら、国・自治体の調査結果にすら、彼らの状態は正しく反映されていない。

 

 

僕は、他人に極度に迷惑をかけていなければ路上で生活するくらい自由にさせてあげればいいと思っている。しかし、精神的疾患や知的障害を抱えた結果、仕方なくホームレスになっているのだとすれば、それは、ホームレスというよりも、単に福祉からこぼれてしまっている人だ。「汚い」「臭い」と周りに思われてしまうホームレスの少なくない人が、このような人ではないかと思っている。

 

彼らが事故に遭遇したり犯罪に巻き込まれたりする可能性は高いだろう。彼らの場合は、一刻も早く保護して路上生活から脱出させるべきだと思うのだが、皆手を差し伸べないし、 街の安全を守る警察官も見て見ぬふりだ。そのため、2020年代の今も、こういったホームレスが路上でさまよっている。
(以上、5月28日刊行『ホームレス消滅』(幻冬舎新書 村田らむ)https://www.amazon.co.jp/dp/4344985931より)