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  • 「その沼入るべからず ―CASE1#胎内記憶」赤ん坊は母親を選んで産まれてくる?!

    「その沼入るべからず ―CASE1#胎内記憶」赤ん坊は母親を選んで産まれてくる?!

    出産、育児、健康法。女性の生活まわりにあるさまざまな情報の中には、ハマるとヤバいものがたくさん⁉ 山田ノジルが独自の視点で突っ込みつつ、沼の注意点をお届けしていきます。

     

    Case1 胎内記憶沼

    昨日、音声SNSを聞いていたら「育児のプロ」を名乗る人たちのルームが、こんなトークで盛り上がっていた。

    「子供は空の上から、お母さんを選んで生まれてくるんです」

    「妊娠したくてもできないのは、親になる準備ができていないから。心のどこかで本当は赤ちゃんが欲しくないと思っているから、子供から選ばれない」

    「赤ちゃんはお腹の中にいたときのことを記憶しているし、外の世界のこともお母さんを通じてわかっている。だから夫婦喧嘩ばかりしていると、やめてと伝えるためにママのお腹を頻繁に蹴るって話もある。子どもたちから聞いた話だから、これホント!」

     

    一般の人たちも「うちの子も、お腹の中でTVの音が聞こえてた~とか話してました!」とか次々語っていたし、ちょっと信じてしまいそう。そういえば図書館で『ママを選んで生まれてきたよ』みたいな絵本を見たこともあったな。自分は妊娠中、義母から「いい子に育つ胎教音楽」とかいうCDをもらったけれど、興味が持てずフリマで処分してしまった。皆が話していたとおり「子育てはおなかの中から始まっている」なら、聴いておけばよかった? もしかしたらこんな親だから、ふたりめの赤ちゃんから「選ばれない」のだろうか――。

     

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    このSNSに登場していたという話題は、「胎内記憶」という一種の思想・教育・自己啓発(一部研究)の類です。胎内記憶はもともと「胎児が母親のおなかの中にいたときの記憶」のことでしたが、胎内記憶を広める一部の人たちにより、いつの間にかスピリチュアル色濃厚な世界観が出来上がりつつあります。「魂が空の上にいたときの記憶」やら「前世」「宇宙」にまで話が及ぶようになり、Case1のようなトークが定番となりました。

     

    この胎内記憶は布教活動の中心人物が産婦人科医なので、医学的な裏づけがあるように思えてしまいますが、200%スピリチュアル的な世界。一般的な科学や医学の論理とは、遠くかけ離れています。平たく言えば「布教者たちが、好き勝手な物語を語っているだけ」。ですからその手の世界に興味がなければ、「親を選んで生まれてきた」とか「お母さんの気分が赤ちゃんに影響する」とかの言説に一喜一憂し、真に受けるだけ激しくソン。「子どもたちが語った」ことが証拠だと主張されていますが、その動画やら何やらを見ていると、正直「言わせている感」もぬぐいきれません。つまり、胎内記憶は「魂の世界の物語」を求める大人が楽しむ娯楽。「子供が親を選ぶ」といった言説に罪悪感を覚えたり、ましてや妊娠中に胎教を取り入れたり必要性は、一ミリもないのです。

     

    「いい話だし、そういう考えで救われる人がいるなら嘘でも問題ない」と考える人もいるでしょう。しかし胎内記憶界で語られているその内容、深堀りしてみると結構なヤバさです。

     

    まずは冒頭のケースで登場している「親を選んで生まれてくる」という言説について。親たちの自己肯定感を高める手っ取り早い甘言なのでしょうが、妊娠しない人に「あなたは選ばれなかった人」とマウントするために使われることもしばしばです。悪意はなくてもそう語られて、結果として傷つく人がいるのは明白でしょう。

     

    さらに「親を選んで生まれてくる」という考えは自己責任論につながり、一部の子供たちをも苦しめます。虐待する親を選んで生まれてきたのも、自分の選択。持病などでハンデのある体も貧困などの環境も、自分が空の上から選んだ人生。そう刷り込まれてしまったら大変です。本来は行政の助けが必要な部分も「運命」というスピリチュアルな世界観で大雑把に仕分けされてしまうと、大人に助けを求められなくなり、必要な支援から遠ざかっていきますから。

     

    それだけではありません。メディアで取り上げられる胎内記憶は「早くお母さんの顔が見たくて、ちょっと早く出すぎちゃった」などのほっこりテイストが多いものの、布教者たちの著作やメルマガ、ブログなどまで興味を広げると、悲惨な世界を「虐待ランド」「戦争ランド」とカジュアルな表現で語るなど、倫理観を疑う語りに次々出くわします。こんなものに感化されては大変です。ちょっとしたモラル・ハザードと言えるでしょう。

     

    昨今は胎内記憶を語る子供が新興宗教の教祖様のように祭り上げられ、スピ商人たちに利用されまくっていたり(人生狂いそう)、日本胎内記憶協会なる社団法人が設立され、胎内記憶を広めるための「認定講師」資格を与えるビジネスも始まっているなどの動きもあります。小規模ですが「赤ちゃんの魂とお母さんをつなぐ仕事」なんてものまであり、女性たちが食い物にされている光景は、目もあてられません。

     

    さてこういうことを言うと、眉をひそめる人もたくさんいそうですね。なにせ胎内記憶は総じて、母子の絆を強調しながら感動的に語られるのが特徴ですから。「多くの人を癒した」「子どもたちが語った、心温まる不思議なお話」「幸せな育児に役立つ」、そう謳う話題には、心情的にツッコミを入れにくい。さらに「子供に言わせる」というのも、抜群の反論防止効果を生み出しています。幸せな親子の間で、子どもが自発的に語る胎内記憶を楽しむには何ら問題はありませんが、商売となれば子供の盾を利用してやっている、ザ・故意犯。日本の未来を明るくする! 幸せな子育てを応援! という空気を拡散しながら、子供をダシするイヤ~な商売です。

     

    胎内記憶をはじめとする怪しい沼は、だいたいこうしたツッコミを「わからない人には何を説明しても通じない」とシャットアウトするでしょう。それもまた、怪しい沼のわかりやすい特徴です。ジャンルは異なりますが、某マルチ商法では製品の成分や効果効能について真っ当な質問すると「この会社の製品が信じられないというのか!」とメタクソに叩かれ、コミュニティから締め出されるそうですよ。こうした物言いや態度には「すべてを無条件に受け入れ、布教や集金活動に奉仕できる人だけ」を相手にしていることが表われています。少しでも違和感を覚えたら、関わらないのが吉。うっかり沼入りすると、癒しどころか自分の心を苦しめ、ひいては子供たちを悩ませる可能性も大いにあるのですから。

     

    妊娠出産や育児はまだまだ未知なことも多く、常識もどんどんアップデートされていきます。特に育児は正解のわからない世界であるうえ、少子化&核家族化で頼れる人も少ない。そんな大変な時代に手探りで育児する人たちは、多かれ少なかれ常に癒しを求めています。そのような世界で、癒しという名目で都合のよい物語を自由に作り出すエセ・スピリチュアル界が商売すれば、濡れ手に粟。「子育てアドバイス」やら「セッション」「セミナー」という名の作り話に無駄な時間やお金を使わぬよう、じっくり見極めていきたいものです。