「映画での探偵は殺人事件を解決したり派手な活躍をするけど、本当の探偵は地味な仕事しかない」
というのは、今や常識になっている。『名探偵コナン』のように殺人現場に私立探偵がウロウロすることはないだろう。
だがそれでも本当に派手な仕事はあったという。
「“大学生の娘が毎晩遅く帰ってくる。調査して欲しい”という家族からの依頼でした。実際に調査をすると、大学の教授と付き合っているようでした」
大学教授は50歳くらいの男性だったという。
ただ家族にとっては大問題かもしれないが、ただの年の差カップルではないか? という気もする。しかし実はもっと根が深そうな話だったという。
「教授は宗教を専門としていました。生徒を洗脳しているという噂もありました」
そのうち娘は教授宅に入り浸り家に帰ってこなくなった。
Nさんはその様子も張り込みして監視していた。
「教授宅から娘さんが出てきた時、顔と顔を近づけるんです。最初は『キスしてるのかな?』と思ってよく見ると、オデコとオデコと合わせていました。毎回それをやっていて『え? なにかの儀式?』って思って怖かったですね」
結局、無理矢理でも引き離さないとまずいという結論になり、娘を取り返しに行くことになった。
「探偵とお母さんで教授の部屋の中に押し入って娘を無理やり取り返しました。娘さんも話をすると、ちょっと頭がおかしくなってるみたいでした。その事件は新聞沙汰にもなり、教授は退職したそうです」
探偵稼業はかなり大変な仕事だったが、それでもやりがいはあった。人生の経験としてはかなりプラスになったという。
だがNさんは、探偵を辞めてしまった。
なぜだろうか?
「ちょっと私自身がストーカーみたいな人に追われてしまったんです。携帯電話の届かないところに逃げようと思って、ボランティアでアフリカはタンザニアのザンジバル島へ行きました。そこでマングローブの樹を植えたり、小学校の壁にペンキを塗ったりしてました」
Nさんの人生は、かなりエキセントリックな展開を迎えたようだが、この話はまたいつか伺いたいと思う。