テーブルがたくさん並べられた広間があった。おそらく食事を提供していた部屋だろう。ここも自然の力でかなり劣化していた。ただし、落書きなどのイタズラは少なかった。いくつかスプレーで日付や名前が書いてあったが、日本の心霊スポットと比べるとキレイだと思う。マナーが良い……というよりは、廃墟探索が日本ほど流行っていないのだろう。
歩いているとお風呂のような施設があった。ただ湯船もなにもない。タイル張りの部屋の真ん中に排水用の穴が開いているだけだ。精神病院患者は風呂に入るのにとても苦労する。そのため、凹凸をつけない。日本の精神病院でも、床に穴を掘る形で湯船が設置されている場合がある。そうしないと、持ち上げて風呂に入れないといけないし、入る時にけつまずいてコケると危ないのだ。
ここに何十人、何百人の精神病患者がいて、生活していたんだと実感した。ドキドキしながら誰もいない廊下を歩いていると、異臭が鼻をついた。カビの臭いか動物の腐臭かな? と思ったが、どうやら違う。化学的な臭いだった。
「うわ、ガスの臭い? そう言えば、放置された薬品が漏れてるってウワサがありました。急いで行きましょう」
と同行者が言った。そういうことは早めに言っておいてほしいものである。