まるで刑務所|医者をトップとした老人を支配・管理する施設はごめんだ!在宅医が語る理想の終末期医療・介護

インタビュー

介護施設『いろ葉』と森田医師のチームプレイによる終末期ケア

「僕が上にいて『じゃあ介護やれよ』と指示するものではないんですよ。今も『いろ葉』のスタッフと一緒に、どうやっていきましょうかと相談してきました。僕もチームの1人であって、全然、上にいないんですよ」

 

だけど、そういうチームができるからやりやすいのだという。医療で対応できない、老衰・看取りの段階であれば、介護士たちが家族や本人にちゃんと寄り添い、思いを聞き出す。今日、往診したのは昨夜の3時に40度の熱が出たお婆さんだ。その時間でも『いろ葉』の人が訪問してくれていた。1~2時間いて、家族の思いを傾聴し寄り添う。

 

「もう体力が落ちてきているってこと、ホントは家族だって分かっているんですよ。

だけど、それを自分で言葉にするってすごく難しいし、受け入れることも難しい。でも、そうやって長い時間をかけて寄り添ってくれる人がいると、だんだんと死を受け入れられるようになっていく。受容の過程をたどれるんですね」

 

それは医者がやってもいいことだし、介護がやってもいいことだ。誰がやってもいいが、『いろ葉』は終末期のケアを長くしているプロ集団。森田氏はまだ鹿児島県で開業して半年。そのお婆ちゃんと家族との関係性はそんなに深くない。『いろ葉』のスタッフは何年もケアしているので、関係性が深い。

 

となったら、そこの部分は『いろ葉』のスタッフに任せる。森田氏があなたがこうしろああしろと言うのではなく、みんなが勝手に動く。そのお婆ちゃんや家族のことをすごく気にかけているからだ。

 

「気にかけるっていうのはすごく大事なこと。

普通の施設だと僕が上にいて、夜中に熱が出たら、解熱剤を入れなさいとか抗生剤を飲ませなさいとか、色んな指示を出さなきゃいけない。そうしないと介護施設は動かない。

だけど、夜中の『いろ葉』は勝手に動いているんですよ。解熱剤を入れるとか、抗生剤を飲ませるとか、そのときの判断で動いてくれるんですね。それが本当のチームです」

 

森田氏は自分と『いろ葉』のスタッフの意見が違ったとしても文句は言わない。熱が出た時に、クーリング(保冷剤)を脇にしようが首にしようが些細なことだ。だけど、うるさい医師ならば、これはエビデンス(根拠)がこうだから「脇の下じゃ意味がない」などというという。

 

「そんなくだらないことを言ってもしょうがないじゃないですか。

細かい手技がどうこう言うよりも、信頼関係とか人間関係で、どうやって看取っていくかということが圧倒的に大事なんですよね。そこに水を差すような医師って最悪だと思うんです」

 

だから、森田氏は患者さんを増やさない。本当は増やしたいが、他の施設の患者さんを診ないというのは、指示系統の一番上にいることを期待されるからだ。トップにすえられてしまうことを森田氏は嫌う。

 

「期待しますよね、そりゃ。今までの医師はみんなそうだったんだから。今、施設だって、例えば20人くらいの高齢者住宅だったら、色んな医師が入ってきているんです。この利用者さんにはこの医師、この患者さんにはこの先生といった感じで。だから、施設の人たちも色んな医師の対応をしているから、基本的に先生の指示がないと動けないような空気になっています。そういう先生が多いですから」

 

医者が研修医になって、一番最初に覚えることは看護師に指示を出すことだという。森田氏もそうだったが、研修医はペーペーで何も分かっていないとしても、指示を出さなければいけない。

 

「上の先生が指示出してるから、こうやって指示を出せばいいんですよと看護師に言われて。医師って指示を出すことが仕事なんですよ」

 

看護師に指示を出す。リハビリに指示を出す。介護士・薬剤師に指示を出す。介護施設も病院も医師がいなければ回らないことになっている。訪問看護も指示書がないと動けない。薬剤師も医師が出す処方箋がないと動けない。

 

「医者っていうのは、ピラミッドの一番上にいることを期待されると思っちゃってるから。僕なんかはそうじゃないと思っているけど、それが医者の世界の常識で。僕みたいに思っている人はほとんどいないんですよ。

なので、『いろ葉』はチームで動くってことをやってくれるけど、他の施設はやってくれないわけです。だから、僕はお断りしているんです」

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