「その沼入るべからず —CASE 5#スマホ育児」|スマホが子供の発達や母子の絆を阻害する!?

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粉ミルクにベビーカー、紙おむつ、ベビーフード。育児で「便利」なものを使うと、高確率で「けしからん」と言い出す人たちが発生します。それが語られる文脈は、大体こんな調子です。
1「最近の子供はおかしくなっている」「昔はこんな子供はいなかった」
2「@@(←障害や病気名を入れましょう)が増えているのと、便利グッズの普及率が比例している」
3「だから(その便利グッズが)危険!」「このままでは日本の未来が危ない」
ほぼ、テンプレ化しています。そうした主張をする人の多くは基本、子供の健康を心配して、育児現場に現れた新顔を警戒し、警鐘を慣らしているのでしょう。しかしそれと同時に、育児は母親が心血そそぎ手間暇かけてやるべきものであり、自分が楽しむことは一秒たりとも許されないという考えも混ざり合っているようにも思えます。さらに、母親はこうあってほしいという一方的な幻想すらも。
ケース5に登場した「スマホに子守りをさせないで!」というポスターは、2013年に日本小児科医会の啓発事業として作られたものです。ところが驚くことに、そこに書かれているスマホと子供の因果関係は、まだよくわかっていない項目も含まれているようなのです。スマホに依存性がある、目に悪い、ライトの刺激で睡眠リズムが乱れるという点は誰しも納得できるでしょう。そして親がスマホに夢中になりすぎると、赤ちゃんから注意が反れて危ないというのも当然です。
ところが学力の低下や体力の低下などの部分は、スマホだけの問題では無いように思えます(読書や作画にハマっても同じ結果になりそう)。「赤ちゃんの欲求にスマホのアプリで応えていると育ちがゆがむ」という主張に至っては、逆にそこまで徹底してスマホ対応している親がいるのでしょうか。「授乳中もスマホを見ず、赤ちゃんと目をあわせ優しく語り掛けてあげましょう」という指導もよくありますが、それも正直イメージで言ってないか? とうがってしまいます。
育児情報には「授乳は左右15分くらいが目安です」と書いてありますが、それはあくまで平均の話しであり30分~1時間かかる子供もいます。しかも新生児のうちは、それが3時間おき。その間、ひたすら顔を見つめ、語りかけろと言われても、普通に無理。逆にひたすら見つめ語りかけ続けていたら、ちょっとお疲れかしら……と心配になる光景です。食事中である赤ちゃんの立場を想像してみても、鬱陶しかったりしないのでしょうか。
さてこのポスターが登場して以降、さまざまな肩書の専門家が、さらにいろいろなことを言っています。親のスマホ依存はプチ虐待であるという激しい主張もありました。それを紹介する記事によると、スマホに依存しやすい母親は、内心子育てをめんどくさいと思っていて、子供への対応も気まぐれ。子供は愛情を感じられずに育ち、愛着障害となり大人になってからも不安定で不幸になる……だそうです。動画配信やオンラインサロン、SNS交流等でスマホにのめりこみ、ネグレクトするなら確かに虐待でしょう(レディコミに出てくるような毒親のごとく)。しかしそうした親は、スマホがなくても別のものに夢中になり、育児放棄するのでは。スマホ依存が社会問題になっているのは確かですが、安易に虐待と結び付けられては、常識的に使い、真っ当な育児をしている親たちをも追い詰め、逆効果になりそうです。
「スマホに子守りをさせないで」には元ネタ的な言説があり、ひと昔前は「TVに子守をさせないで」でした。当時は脳のメカニズムが今以上にわかっていなかったこともあり、TVを見せっぱなしの育児が自閉症の原因とまで言われたのです。愛情をこめて世話をしないと赤ちゃんが感情をなくすという「サイレントベビー」なる造語も、TV育児と関連付けて語られています(TVが原因でサイレントベビーになった子供は実際どれくらいいるのでしょう?)。そして今の時代もこの言葉は生き残り、スマホ育児でサイレントベビーになると脅す育児記事も珍しくありません。こうした背景を知らず、スマホ育児は子供を壊す! という言葉だけを受け取ってしまうと、「便利なものは使ってはならぬ」「メディアは子供に悪!」という考えを刷り込まれそうです。
子供が字を覚え、スマホを使いこなすようになれば犯罪やSNSなどまた別の危険がありますが、今回は幼児の話にとどめておきましょう。親のスマホ利用については、ポスターで語られていない危険があります。常に身につけているスマホで情報収集しすぎた結果、根拠のない育児神話にとりこまれ、沼入りしてしまうことです。ネットで交流できるママコミュニティが、カルトやマルチの勧誘の場であったという話も、そこら中に転がっています(特に筆者の周りでは)。そういった危険性は確かにあるものの、手が足りない部分をスマホで補うことに、罪悪感を覚える必要はないと思います。子を持つことが「贅沢品」「子育て罰」とまで言われる時代になったのに、育児だけ昔と同じようにせよというのは無理がある。心血注いで子供の欲求に応えよという沼からのささやきは無視して、ほどよく力を抜いて育児を楽しみたいものです。