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  • 「その沼入るべからず —CASE 5#スマホ育児」|スマホが子供の発達や母子の絆を阻害する!?

    「その沼入るべからず —CASE 5#スマホ育児」|スマホが子供の発達や母子の絆を阻害する!?

    出産、育児、健康法。女性の生活まわりにあるさまざまな情報の中には、ハマるとヤバいものがたくさん⁉ 山田ノジルが独自の視点で突っ込みつつ、沼の注意点をお届けしていきます。

     

    Case5 #スマホ育児 

     福祉センターの中にある子育て広場に向かうと、廊下にいろいろなお知らせが張り出されていた。離乳食教室、歯磨き指導、3歳児検診のお知らせ、親子向けイベント。どれも小さな子供をもつ親に向けたものだ。その中の、こんなポスターに目がとまった。

     

    「スマホに子守りをさせないで!」

    スマホに子守りをさせないで

     (図:公益社団法人 日本小児科医会

    https://www.jpa-web.org/about/organization_chart/cm_committee.html)

     ぐずる赤ちゃんに子育てアプリで応えていると、育ちを歪める。スマホを見せっぱなしにしていると、親子の会話や体験を共有する時間が奪われる。スマホを見せるではなく、親と赤ちゃんと目と目を合わせ、語りかけることが大切……。要はスマホを取り入れた育児をは要注意! ということらしい。その隣には「スマホの時間、わたしは何を失うか」というポスターが続き、スマホの利用で子どもの学力、体力、コミュニケーション力が低下したり、脳にダメージが生じるとまで書いてある。

     

    乳児を抱える自分にとって、今やスマホはなくてはならない道具。移動中に子供がぐずり自分の体力気力が枯渇していれば、少しの間動画を見せてしまう。つかまり立ちをするようになってきたので危険も多く、食事の支度をする10~20分の間でもタブレットで大人しく遊んでいてくれるとすごく助かる。子供向けの動画やアプリはよくできていて、利用時間の設定ができたり親も知らなかった童謡や手遊びも楽しめたりする。子供に見せるだけでなく、病院の予約や天気予報、育児に必要な情報など、親にとっても育児に役立つことがたくさんある。こんな状況で「スマホを使った育児をダメ」言われると、正直困ってしまうかも。

     

    ポスターの発行元は、医師会と書いてあるからきっと信頼できる情報なのだろう。でも真面目に育児に取り組む親たちは、本当にスマホを使っていないの? うちの場合は動画を見せているときはできるだけ子供と一緒に楽しんでいるのだけど、それもダメ? ママ友は、通りすがりの中年女性にこんなことを言われたそうだ。抱っこ紐で移動中、乗り換え情報をスマホで調べていると「スマホじゃなくて、赤ちゃんの顔を見てあげてね!」と。自分の楽しみのために見ているわけじゃないのに、なんでそんなことを言われなくてはならないの!? と悲しそうに話していた。

     

    「ほどほどにならOK」と言われても、なんだか肩身も狭いし、それ以上に子供への影響が心配。結局のところ「昔ながらの生活」が子供には一番いいということ?

     

  • 「妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話」|作者ズュータンさんに聞くマルチ商法の恐怖

    「妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話」|作者ズュータンさんに聞くマルチ商法の恐怖

    定番は、鍋や洗剤などの日用品。最近ではメディカルグレードと謳われるアロマオイル。若い人たちの間では、仮想通貨やアフィリエイトの勉強会など。

     

    さまざまな商品を通じ「マルチ商法」のトラブルが広がり続けています。

     

    「マルチ商法」とは、特定商取引法で「連鎖販売取引」と定義されている商売の俗称。「うちはマルチではなくネットワークビジネスです!」というようなお怒りのコメントも度々目にしますが、日本ではネットワークビジネスもマルチ商法と同じ連鎖販売取引として分類されているので、要は同類です。マルチ商法はその組織に加入して商品を販売するだけでなく、人を紹介して会員にさせると紹介料やマージン等の利益を得ることができるので、連鎖的に拡大していくという特徴があります。勧誘という目的を隠して「楽しい集まりがある」と誘ったり(これは法で禁止されています)、商品を売るために科学的根拠のない健康効果を謳ったり、売り上げノルマのために借金をしたり。最近ではそんなトラブルが、SNSでもチラホラと語られるようになってきました。

     

    さてこれは、一部の特殊の人たちがハマる沼ではありません。その恐ろしさを身をもって体験したのが、ズュータンさん。自分の体験、そして同じような苦しみを抱えている人たちの苦悩を綴った『妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話。』(ポプラ社)の著者です。どのような人がハマるのか? ハマる人の心理は? 誰もがハマる可能性のあるマルチ沼について、お話を伺いました。

    妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話

    本のタイトルにもあるとおり、ズュータンさんは元妻がマルチ商法にハマり、様々な対策に走ったものの離婚したという経歴の持ち主。なぜこうなったのかを知りたい気持から、同じようなマルチ商法の被害者たちから話を聞くようになったといいます。取材時点で、その数130人近く。どのような人がマルチ商法に「狙われやすい」のか? と尋ねると、「容姿のいい人」という意外な答えでした。

     

    ズュータン「マルチグループが狙いたい人。基本的にはまんべんなく狙われますが、その中でもお金を持っている人は当然として、格好のターゲットになるのは容姿のいい人です。マルチ商法のグループって、たまにモデルとかいたりするんですよね。ハイブランドのアパレル店のドアマンをやっていますなんて人もいました。それは単純に、見た目のいい人を前に出して商品をアピールするとイメージがよくなるからです。深みまで引き込まなくても、「あの人も使っているんだよ」と言いたいんです。あとは当然、影響力のある人も狙われます。女性なら、ママ友がたくさんいる人とか起業家とか。そこから広がる人脈で、たくさんの人を勧誘できますから」

     

    いかに魅力あふれる商売か、喫茶店などでターゲットを相手に必死でプレゼンしている姿を見たことがある人も多いでしょうが、なるほど始めから多くの人を従えている人を引き込めば、あの労力が軽くなるのはご尤も。

     

    ズュータン「どのような人がハマりやすいか? というのもすごくよく質問されるのですが、それをいうのは少々憚られます。寂しい人とか不安な人とか、配偶者が悪かったんじゃないかとか、親との関係がどうこうとか……。しかし、マルチ商法にハマった人に対し「 やっぱりああだよね」とジャッジするのは、後付け、半ばむりやり結び付けている感じがあります。きっと誰しも、理解できないものに対して不安になるのでしょう。だから自分たちが納得するために、ハマった人に対して安易なレッテル張りをしているところがあるように思えます。もちろんある程度のパターンは存在しますが、ひとりひとりに、異なるハマる背景があります。沼にハマる人を減らしたいのなら、パターンだけではないところに目を向けていかないといけません。勧誘する側というのは、その裏をついてきますから」

     

    ズュータンさん曰く、マルチ商法の勧誘メンバーも実に様々だといいます。それは「沼の入り口はどこにでもある」ということ。

     

    ズュータン「マルチ商法は企業にもよりますが、いくつものグループが形成されています。グループの構成員はさまざまで、主婦、中年男性、若者、学生……実に多様です。主婦グループの場合はリーダー格の人が60代くらいで、家族ぐるみでマルチ活動をしているのもよくあるパターンです。するとその子供たちは就職せず、マルチ商法で生計を立てているケースもある。彼らのイベント写真など見ると、その子供の友達なども集まるので、3世代くらいの人間が大勢集まっているとても賑やかな雰囲気です。マルチ活動をしている20代後半~50代ぐらいまでの人、かつ売り上げランク上位の人って、大体そんな感じのマルチ2世なんじゃないでしょうか。親もマルチの収入でお金を持っているし、親に紐づいている会員を自分のグループとして譲ってもらえたりするし、進路がマルチという選択しかなくなりそうです。マルチの危険性を知らずに傍から見れば、マルチをやっているから親子仲良くて人もあんなに集まってきてしかもお金も持っていて、とても幸せそうに見えてしまいます。そして誘われるがまま、自分をそこを目指そうとハマってしまうケースもあるでしょう」

     

    鍋や洗剤などの日用品を扱う某有名マルチ会社などは、家族単位で活動することが理想とされている感じもあります。

  • 「その沼入るべからず —CASE4#布おむつ」|紙おむつで育つと反抗的で反社会的な性格になる?!

    「その沼入るべからず —CASE4#布おむつ」|紙おむつで育つと反抗的で反社会的な性格になる?!

    出産、育児、健康法。女性の生活まわりにあるさまざまな情報の中には、ハマるとヤバいものがたくさん⁉ 山田ノジルが独自の視点で突っ込みつつ、沼の注意点をお届けしていきます。

     

    Case4 布おむつ

    「赤ちゃんがかわいそう」。子供に使い捨てタイプの紙おむつを使っていると、久しぶりに会った元職場の先輩からこう言われた。話を聞けば「石油化学製品である紙おむつは、赤ちゃんの肌に負担」「赤ちゃんのデリケートな肌には、綿100%である布おむつが一番」なんだとか。「おしりサラサラで気持ちいい」なんてCMをそのまま信じてしまっていたのが恥ずかしくなり、もっと子供の健康を真剣に考えなくてはいけない……と考えるようになった。

     

    紙おむつは成分の問題のほか「地球にやさしくない」と指摘されているのは、自分の体験からも納得できる。初めて紙おむつを使って驚いたのは、毎日出るゴミの量だったからだ。たまに手伝いにきてくれる実母も「布おむつの時代は、こんなゴミ出なかったのに……」ってつぶやいていたなあ。子供たちの未来のために、私たちが今できることを、ひとつひとつやらなくてはいけない。

     

    布おむつを始めるには、おむつカバーやつけおきするための容器など、多少の初期投資は必要だけど、繰り返し使えるから紙おむつと比べれば圧倒的に経済的。おむつが必要なくなったら、お下がりしたり布ナプキンにリメイクしたり、最後は掃除に使えばパーフェクト! そして何より魅力的なのは「おむつ外れが早くなる」「快・不快のメリハリが大きいから、情緒面の発達も豊かになる」「おむつ替えの頻度が高くなるので、親子のコミュニケーションになる」というポイント。知れば知るほど、いいことばかり。洗濯はちょっと大変そうだけど、子供のために、楽しみながらがんばろう。

    おむつ,赤ちゃん

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    「信者」と揶揄されるレベルに布おむつを信奉している人は、こんな感じで自然派育児の沼にはまっていくのでしょう。環境にいい・経済的だという点は間違っていませんが、そのほかは、そう言い切るには疑問が残るような、根拠の薄い言説です。

  • 「その沼入るべからず —CASE3#自然なお産」帝王切開は残念なのか?!自然が一番というマウント

    「その沼入るべからず —CASE3#自然なお産」帝王切開は残念なのか?!自然が一番というマウント

    出産、育児、健康法。女性の生活まわりにあるさまざまな情報の中には、ハマるとヤバいものがたくさん⁉ 山田ノジルが独自の視点で突っ込みつつ、沼の注意点をお届けしていきます。

    CASE2#母乳神話はこちらから

     

    Case3 自然なお産

    現在、第2子妊娠中。第1子は何の疑問もなく総合病院で産んだけど、その後「自然なお産」なる選択肢があることを知った。助産院などで行われ、医療の介入は最低限に「自分の産む力・子供の生まれる力」を最大限生かす方法なんだとか。それを知ると、「上の子は本当に、分娩台で生まれたかったのかな?」「自分らしいお産だったと言えるか?」「会陰切開や吸引は自分に必要な処置だった?」ということが気になりはじめ……。

     

    お産は本来神聖な行為であり、医師たち観衆のもとでするようなものではない。昔は皆自宅で産んでいた、当たり前の産み方。ヒトの本能であるそれができなくなっているのは、生物としておかしい。病院でのお産は機械的で冷たいから、出産時に分泌される愛情ホルモンが出にくくなる。するとお産が難航し、育児もたいへんになるetc. 

     

    よくネットとか体験談で「帝王切開は残念な出産」「下から産まないとダメ」とかの意見があるのって、こうした事実があるからなんだろうか。

    でも調べると、現代女性が自然なお産をするには、結構な努力が必要になるようだ。ブログなどの体験談には、1日3時間の散歩やハードなスクワット、床の雑巾がけ、白砂糖排除とかが出てくる。コレ、働きながらは難しくない!?(一般的な企業では、産休がとれるのは妊娠8か月頃から)

    何がいいのか悪いのかよく分からなくなってきたのが、今ここ。

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    「自然なお産」とは、お産が医療施設で行われるようになった以前の時代に主流だった、昔ながらの出産法のことです。昔は医師の立ち合いもなく、ほとんどの女性が自宅で産んでいたのだから、会陰切開や吸引・鉗子分娩、分娩台、帝王切開、麻酔、陣痛促進剤などは「不自然」である。「母親が主体的」に「自然の流れ身をまかせる」ことが、自然でいいお産だとする考えです。日本では2007年ころにちょっとした自然なお産ブームが発生しました。2021年7月の現在はコロナ禍というご時世もありやや下火傾向ですが、自然なお産界隈が放ったメッセージは薄まらず広がり続け、多くの女性たちを混乱させたり傷つけたりする原因になっています。

     

    自然なお産を推奨している界隈では、こんなメッセージが発信されています。 

    「自分の産む力と子供の生まれる力を最大限に使いきる自然なお産は、神秘的かつ感動的」

    (訳・医療が介入すると、これが損なわれる)

     

    「真実のお産(=自然なお産)をしてこそ、本当の母親になれる」

    (訳・無痛や帝王切開は楽をして産んでいるので、けしからん。認めたくない)

     

    「自然なお産では愛情ホルモンがしっかり出るから、その後の育児も楽になる」

    (訳・楽して産んで、子育てできるの~? という偏見)

     

    「アットホームな環境で信頼関係を築きながらのお産となるので、満足度も高い」

    (訳・病院は非人道的で冷たい。後悔するよという脅し)

    心身ともに安定している状況で冷静に聞けば「根拠ねーわ」と鼻をほじって聞き流せる言説ですが、なんといっても妊娠・出産案件です。妊娠していれば体内で突貫工事が行われ、ホルモンバランスが嵐のように変化している、非常事態下。心身ともに不安定で朦朧としていると上手く避けられず、真正面から強烈なメッセージでぶん殴られ、コロっと鵜呑みにする人もいるでしょう。そのうえ「お腹を痛めて産む」ということが大切の思われている精神論から、非・自然なお産へは差別的な暴言まで放たれます。

     

    「帝王切開で生まれた子は、最初の試練をくぐってきていないから弱い子どもになる」(訳・産道を通ってきていない)「寝ている間に終わるお産なんて、ラクしている。痛みを感じて産まないと、親になる覚悟が生まれない」「無痛分娩は赤ちゃんを苦しめる悪いもの※」「陣痛を安易に麻酔で麻痺させるのは、生まれる力からの逃げである」「吸引や鉗子で生まれた子は人相が悪い」「お産に挑む姿勢かうかつであったから、帝王切開になった」「しっかり準備して自然に産めば、会陰を切る必要はない。会陰切開は、産後の身体を痛めつける、悪しき習慣」

    母子に影響がある静脈麻酔を行ったり、硬膜外への局所麻酔でも濃度が高かった時代があるが、現在は安全な量が使われるようになっている。

     

    書いているだけでイラっときますから、直に言われた人たちは本当に辛かったことでしょう。自然なお産布教で放たれるメッセージの中には、一理あるものもあります。必ずしも分娩台や会陰切開が必要ではなかったり、古い時代の麻酔には問題点もあったでといいます。しかし多くは根拠のない話ばかりであり、現代文明を憎む古代文明の邪神に取り憑かれちゃった~? くらいにしか思えません。そもそも帝王切開をはじめとする医療行為は、命を守るためのもの。楽するためとか精神的な余地は一ミリもないハズです。「やればできる!」と言わんばかりの根性論・感情論とすり替えて非・自然出産を貶めるとは、不自然すぎる話。当事者が「こう産みたい」と思う気持ちはあっていいと思いますが、「こうでなければならぬ」となるとやっかいですね。

     

    「自然」に産んでいた時代は現代と比べ、母子ともに死亡率が桁違いであるのも今一度再確認しておきたいポイントです。自然なお産を妄信する人たちは、それすらも「自然の摂理」として、弱い種は淘汰されるという優勢思想もあるので、ちょっと……どころか、相当怖い。

     

    多少無理があっても苦労しても、よりよい産み方をしなくてはならないと思わされてしまうのは「子供に関するトラブルは、何でもかんでも母親のせい」とする風潮にも原因があるでしょう。しかし卵が先かニワトリが先か、自然なお産の根底にある考えもそれを増長していそう。自然なお産神話を真に受けてしまうと、アトピーや障害など、子どもに何かあったときに「下から産んであげられなかったせいでは?」「自分のせいだ」という考えになり、せめて育児は……と、手作り信仰など別の沼にハマっていくルートも高確率で待ち受けています。

     

    本来、妊娠・出産・育児はコントロールが難しいもの。スタート地点で思い通りにしようとこだわりすぎると、その後の苦しみが増えるだけです。努力していかに成功(自然に産むこと)を勝ち取ったかという体験がドヤ語りされるのは、難しいからこそだと思います。しかも自然なお産は、条件の限られた一部の人しか選択することができないため、ちょっとした優越感もあるのでは。

     

    「第1子を病院で産んだとき、イヤな思いをして悔いが残った」というのは、自然なお産の動機あるあるですが、そもそも出産は自己実現の場ではありません。「感動的なお産にしましょう」というささやきは、「こちらにおいでおいで~」と手招きしている沼の妖怪。この妖怪は、人生の一大イベントへの憧れや、後悔の気持ちにスルリと入りこんでくるので要注意です。もちろん適切な医療を取り入れたうえで、ムリなくバランスよく自然なお産を応援してくれる病院・助産院などはたくさん存在しますので、もし自然に産みたいと思ったら、その施設が妖怪の棲む沼でないかをよ~く見極めましょう。

     

    そして非・自然なお産をディスられた皆様におきましては、「妖怪がなんか言ってる」くらいに聞き流しましょう。親しくしている友人あたりに自然のお産の素晴らしさを力説されるとちょっと厄介ですが、生まれてくる過程でなく「無事に生まれておめでとう!」と子供の誕生そのものを祝う姿勢が無難でしょう。

  • 「その沼入るべからず —―CASE2#母乳神話」母乳にこだわりすぎてネットで他人の母乳を購入?!

    「その沼入るべからず —―CASE2#母乳神話」母乳にこだわりすぎてネットで他人の母乳を購入?!

    出産、育児、健康法。女性の生活まわりにあるさまざまな情報の中には、ハマるとヤバいものがたくさん⁉ 山田ノジルが独自の視点で突っ込みつつ、沼の注意点をお届けしていきます。

    CASE1#胎内記憶はこちらから

     

    Case2 母乳神話

    「母乳こそが愛情!」「母乳をあげている時間が親子の絆も育むんだ~って思ったら、すごく幸せ」

    出産のタイミングが重なった同級生とママ友になり、子連れでお茶をしているとこんなトークが始まった。「産後ハイ!?」と一瞬驚いたけど、そういえばこの子、オーガニックな暮らしとか、月のリズムを意識したヨガとか好きだった。なるほど、こんな感じの親になるのか……。

     

    自分も子供に母乳を与えているけど、分泌量が足りていない気がするし復職の予定もあり、さらに体調によっては授乳を夫に変わって欲しいこともあり、あえての混合にしている。ところがそれを話すと「ほ乳類なんだから、頑張れば絶対に出る! 母乳を諦めないで!」「粉ミルク育ちはブクブク太る」「母乳はアレルギーも予防できるし、IQも高くなる」とたたみかけられてしまった。さらに質のいい母乳を出すには薄味の和食、乳腺炎になりかけたらキャベツやジャガイモのすりおろしで冷やすといいなどのアドバイスまで展開され、正直お腹いっぱいだわ。

     

    もちろん、母乳が子供にとって最適な栄養であることには異論ない。でもママ友が熱心に語る母乳の素晴らしさには「粉ミルクは親失格」というメッセージが含まれているように思え、子供に対し後ろめたい気持を感じてしまい……。

     

    *******

    これは出産後の親たちが、高確率で遭遇する「母乳神話」です。根拠のない話もごちゃまぜになった母乳の効果効能が巷に広まっているのです。それらはCase2のようにママ友経由で伝わることもあれば、助産院を始めとする「自然なお産」周りでもよく広められています。無料で読めるネット記事などにも度々姿を現すため、遭遇率の高さは相当なものだと言えるでしょう。

     

    根拠が怪しいお説とは、次のようなものです。

    「母乳育ちのほうがIQが高い1」「母乳のほうが情緒が安定する2」「母乳のほうがアレルギーになりにくい」「母乳のほうが絆が深まる」「母乳っ子は人間が大好きになる」「母乳育ちの赤ちゃんは、目の輝きが違う」

    1、2はミルクよりも母乳のほうが優位だという研究結果はあるが、長期的な効果は確認できていない。

     

    「目の輝き」とか、一体どうやって測定&評価するんでしょうね。こうした意味不明な言説も含め、母乳がまるで魔法の液体かのように謳われているのです。

     

    母乳育児が親子にとって、大きなメリットをもたらすことは間違いありません。赤ちゃんの体が消化吸収するのに最適な栄養であること。母乳を与えることで免疫機能が未熟な赤ちゃんが感染症にかかる確率を低くしたり、乳幼児突然死症候群(SIDS)を予防する可能性があること。母親側は、子宮の回復や体重減少がスムーズになる。これらは、研究により根拠がしっかり確認されています(とは言え生まれつきの体質や個人差も大きいようで、母乳かミルクかで簡単に測れる問題でもないようですが)。

     

    でも、入念&開発されている現代の粉ミルクだって、母乳と比べてそん色ない栄養です。重要な抗体が含まれる初乳にまでは追いつかないものの、粉ミルクは母乳に極力近い成分になるように作られています。また、母親以外の人でも赤ちゃんに食事を与えられることができるのも、母親が体を休められる嬉しいポイントです。乳房のコンディションや母乳の分泌量に振り回されないことが、健康上プラスとなる人もいるでしょう。そもそも粉ミルクが問題のある栄養だったとしたら、粉ミルク消費量が多かった第二次ベビーブーム世代(現代40代後半)は無事育つことができず、あの過酷な受験&就職競争率は存在しなかったはずなのでは? 

     

    粉ミルクと母乳。どちらにもメリットとデメリットがあり、それはライフスタイルにあわせて選べばいいだけのこと。なのに「母乳でなければならぬ」と母親たちを追い詰め、結果的に粉ミルクのデメリットを強調する「母乳神話」はどこから生まれてくるのでしょう。私がこれまで取材してきた中から考えるに、ざっくり3つの発生源があります。

     

    まずひとつは「自然こそが安全で正しい」「人工に作られたものは危険で怖い」と考えです。近代栄養学や工業的なものに対して反発する思想から、自然に傾倒していく、いわゆる「自然派」です(育児界では自然派ママと呼ばれる)。自然の営みから外れると(人工的に作られた粉ミルクを与えること)、いずれツケが来る。子供の成長に不具合が生じる。粉ミルクの原料である乳製品は、本来ウシの赤ちゃんが飲むもの。ヒトが飲むなんて不自然! そんな言説に触れ、不安を植えつけられた人も多いでしょう。さらに自然派における母乳信仰は政治的な思想との結びつきもあり、「粉ミルクは消費社会から支配されること」「企業にコントロールされてしまう」「母乳育児は権力と資本からの解放!」とまで飛躍するケースも見られます。実際、昭和の時代に国や企業によって行き過ぎた粉ミルク布教があったことは事実ですので、当時それに危機感を覚え、母乳のメリットを強調した啓蒙活動のエッセンスが、今に残っているという要因もありそうです。

     

    お次は「手間暇かけることこそが愛情」という考えかたです。これには「一切楽をせず、心血注いで育、立派な子供を育てるべし」「母親は一瞬たりとも自分の楽しむ時間を持つべきではない」といった、明治時代の良妻賢母教育の名残を感じます。こうした考えが根底にあると、現代の便利な育児グッズは親を堕落させるものに思えてくるよう。軌道に乗りさえすれば、調乳や器具の手入れが必要な粉ミルクより、母乳のほうが楽な面もあるのですが、なぜだか粉ミルクは直に身を削らないからか「楽している」と避難されがちです(体力・手間・時間を削ってますけどねえ)。2019年に液体ミルクの発売が始まった時も、「液体ミルクで楽していると本当の親になれない」だの「おっぱいは何のためについているのか」といったネガティブな意見が男性から発信され、Twitterではちょっとした炎上騒ぎとなりました。そもそも、母乳の代替となるミルクが必要なのは労働や体の問題であって、手抜きをするためではありません(個人的には手抜きでもいいと思いますけど)。母乳に限らず「栄養」というものに、愛や絆といった意味を持たると、だいたいおかしなことになるものです(冷凍食品論争とかな!)。

     

    3つめは、母乳を与えることで「女として・母として優れている」という優越感を覚えること。努力によって子供に最良の栄養を与えることができたという達成感や喜びが、母乳神話のブースターになっているケースも多々見られます。生存本能で狂おしく子供から求められながら、小さくはかない命をつないでいる万能感と自己肯定感。それらが暴走し、粉ミルク育児を見下し、母乳の効果効能を現実以上に信じてしまう。産んだ直後から「お母さん」を押し付けられ、自分が自分でなくなっていくような感覚(アイデンティティ・クライシス)に陥る人もいれば、逆に母乳を与えている自分がアイデンティティになる人もいるのです。出産の現場をリアルに描いた漫画『コウノドリ』(鈴ノ木ユウ著・講談社)でも、登場人物が友人から「帝王切開だと母乳も母性も出ない」と言われるエピソードがありました。こういったいざこざは、自分の劣等感を補うために相手をディスり優越感にひたるマウンティングほかなりません。こうなると赤ちゃんのためだった母乳が、自己肯定感を高める魔法の道具になってしまい、目もあてられません。

     

    母乳神話にハマってしまった結果、「何が何でも母乳でなければならぬ」と追い詰められてしまう母親が後を絶ちません。2015年には子供に母乳を与えたいと思うあまり、ネットで「新鮮な母乳」を買ったところ、ニセ母乳だったという事件がありました。某メディアが業者から母乳を購入して分析してみると、なんと正体は雑菌まみれの水で薄めた粉ミルクだったのです。他にも「母乳が出るようになるハーブティ」など、根拠の薄い商品はいくらでもあります。これらは母乳でなければ子供に不利益が生じるのではと不安になる親心に付け込んだ「悩める母ビジネス」。母乳神話が悪質なビジネスを潤す養分となっているとは、酷い話です。

     

    子供が成長すれば授乳の悩みは自然と消えていきますが、沼は基本いろいろなジャンルで連結しています。母乳神話にハマっていれば、そのまま別のオムツ沼や無添加沼へとスライドしていくでしょう。育児・出産の世界は科学的根拠が全てではない部分も否めないため、いろいろな思想やビジネスが入りこんで来る魔界です。広く浅く見分をひろめ、沼の深みへハマってしまわぬようご注意を。

     

  • 「その沼入るべからず ―CASE1#胎内記憶」赤ん坊は母親を選んで産まれてくる?!

    「その沼入るべからず ―CASE1#胎内記憶」赤ん坊は母親を選んで産まれてくる?!

    出産、育児、健康法。女性の生活まわりにあるさまざまな情報の中には、ハマるとヤバいものがたくさん⁉ 山田ノジルが独自の視点で突っ込みつつ、沼の注意点をお届けしていきます。

     

    Case1 胎内記憶沼

    昨日、音声SNSを聞いていたら「育児のプロ」を名乗る人たちのルームが、こんなトークで盛り上がっていた。

    「子供は空の上から、お母さんを選んで生まれてくるんです」

    「妊娠したくてもできないのは、親になる準備ができていないから。心のどこかで本当は赤ちゃんが欲しくないと思っているから、子供から選ばれない」

    「赤ちゃんはお腹の中にいたときのことを記憶しているし、外の世界のこともお母さんを通じてわかっている。だから夫婦喧嘩ばかりしていると、やめてと伝えるためにママのお腹を頻繁に蹴るって話もある。子どもたちから聞いた話だから、これホント!」

     

    一般の人たちも「うちの子も、お腹の中でTVの音が聞こえてた~とか話してました!」とか次々語っていたし、ちょっと信じてしまいそう。そういえば図書館で『ママを選んで生まれてきたよ』みたいな絵本を見たこともあったな。自分は妊娠中、義母から「いい子に育つ胎教音楽」とかいうCDをもらったけれど、興味が持てずフリマで処分してしまった。皆が話していたとおり「子育てはおなかの中から始まっている」なら、聴いておけばよかった? もしかしたらこんな親だから、ふたりめの赤ちゃんから「選ばれない」のだろうか――。

     

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    このSNSに登場していたという話題は、「胎内記憶」という一種の思想・教育・自己啓発(一部研究)の類です。胎内記憶はもともと「胎児が母親のおなかの中にいたときの記憶」のことでしたが、胎内記憶を広める一部の人たちにより、いつの間にかスピリチュアル色濃厚な世界観が出来上がりつつあります。「魂が空の上にいたときの記憶」やら「前世」「宇宙」にまで話が及ぶようになり、Case1のようなトークが定番となりました。

     

    この胎内記憶は布教活動の中心人物が産婦人科医なので、医学的な裏づけがあるように思えてしまいますが、200%スピリチュアル的な世界。一般的な科学や医学の論理とは、遠くかけ離れています。平たく言えば「布教者たちが、好き勝手な物語を語っているだけ」。ですからその手の世界に興味がなければ、「親を選んで生まれてきた」とか「お母さんの気分が赤ちゃんに影響する」とかの言説に一喜一憂し、真に受けるだけ激しくソン。「子どもたちが語った」ことが証拠だと主張されていますが、その動画やら何やらを見ていると、正直「言わせている感」もぬぐいきれません。つまり、胎内記憶は「魂の世界の物語」を求める大人が楽しむ娯楽。「子供が親を選ぶ」といった言説に罪悪感を覚えたり、ましてや妊娠中に胎教を取り入れたり必要性は、一ミリもないのです。

     

    「いい話だし、そういう考えで救われる人がいるなら嘘でも問題ない」と考える人もいるでしょう。しかし胎内記憶界で語られているその内容、深堀りしてみると結構なヤバさです。

     

    まずは冒頭のケースで登場している「親を選んで生まれてくる」という言説について。親たちの自己肯定感を高める手っ取り早い甘言なのでしょうが、妊娠しない人に「あなたは選ばれなかった人」とマウントするために使われることもしばしばです。悪意はなくてもそう語られて、結果として傷つく人がいるのは明白でしょう。

     

    さらに「親を選んで生まれてくる」という考えは自己責任論につながり、一部の子供たちをも苦しめます。虐待する親を選んで生まれてきたのも、自分の選択。持病などでハンデのある体も貧困などの環境も、自分が空の上から選んだ人生。そう刷り込まれてしまったら大変です。本来は行政の助けが必要な部分も「運命」というスピリチュアルな世界観で大雑把に仕分けされてしまうと、大人に助けを求められなくなり、必要な支援から遠ざかっていきますから。

     

    それだけではありません。メディアで取り上げられる胎内記憶は「早くお母さんの顔が見たくて、ちょっと早く出すぎちゃった」などのほっこりテイストが多いものの、布教者たちの著作やメルマガ、ブログなどまで興味を広げると、悲惨な世界を「虐待ランド」「戦争ランド」とカジュアルな表現で語るなど、倫理観を疑う語りに次々出くわします。こんなものに感化されては大変です。ちょっとしたモラル・ハザードと言えるでしょう。

     

    昨今は胎内記憶を語る子供が新興宗教の教祖様のように祭り上げられ、スピ商人たちに利用されまくっていたり(人生狂いそう)、日本胎内記憶協会なる社団法人が設立され、胎内記憶を広めるための「認定講師」資格を与えるビジネスも始まっているなどの動きもあります。小規模ですが「赤ちゃんの魂とお母さんをつなぐ仕事」なんてものまであり、女性たちが食い物にされている光景は、目もあてられません。

     

    さてこういうことを言うと、眉をひそめる人もたくさんいそうですね。なにせ胎内記憶は総じて、母子の絆を強調しながら感動的に語られるのが特徴ですから。「多くの人を癒した」「子どもたちが語った、心温まる不思議なお話」「幸せな育児に役立つ」、そう謳う話題には、心情的にツッコミを入れにくい。さらに「子供に言わせる」というのも、抜群の反論防止効果を生み出しています。幸せな親子の間で、子どもが自発的に語る胎内記憶を楽しむには何ら問題はありませんが、商売となれば子供の盾を利用してやっている、ザ・故意犯。日本の未来を明るくする! 幸せな子育てを応援! という空気を拡散しながら、子供をダシするイヤ~な商売です。

     

    胎内記憶をはじめとする怪しい沼は、だいたいこうしたツッコミを「わからない人には何を説明しても通じない」とシャットアウトするでしょう。それもまた、怪しい沼のわかりやすい特徴です。ジャンルは異なりますが、某マルチ商法では製品の成分や効果効能について真っ当な質問すると「この会社の製品が信じられないというのか!」とメタクソに叩かれ、コミュニティから締め出されるそうですよ。こうした物言いや態度には「すべてを無条件に受け入れ、布教や集金活動に奉仕できる人だけ」を相手にしていることが表われています。少しでも違和感を覚えたら、関わらないのが吉。うっかり沼入りすると、癒しどころか自分の心を苦しめ、ひいては子供たちを悩ませる可能性も大いにあるのですから。

     

    妊娠出産や育児はまだまだ未知なことも多く、常識もどんどんアップデートされていきます。特に育児は正解のわからない世界であるうえ、少子化&核家族化で頼れる人も少ない。そんな大変な時代に手探りで育児する人たちは、多かれ少なかれ常に癒しを求めています。そのような世界で、癒しという名目で都合のよい物語を自由に作り出すエセ・スピリチュアル界が商売すれば、濡れ手に粟。「子育てアドバイス」やら「セッション」「セミナー」という名の作り話に無駄な時間やお金を使わぬよう、じっくり見極めていきたいものです。