そして、こちらの図を見ていただきたい。
抗ADHD薬ストラテラの売上高は、この8年間で約50倍に増えている。尋常ではない増え方だ。
筆者はこの急激な人数の増加とかつての「うつは心の風邪です」キャンペーンによる、うつ病患者の急増が重なる。精神科、心療内科というと「うつ病」をイメージする方も多いと思う。このうつ病啓発キャンペーンにより、精神科や心療内科受診のハードルは格段に下がった。
発達障害ブームを説明するには、まずは1999年(平成11年)頃に始まったうつ病患者の急増に触れると分かりやすいだろう。1999(平成11)年から2005(平成17)年の間に、うつ病患者は2倍に急増し、抗うつ薬の売上も9年で6倍になるという現象が起きた。この患者数と抗うつ薬の急激な伸びは、自然発生したものではない。
この有名な「うつは心の風邪です」というフレーズは、軽度のうつ病を「心の風邪」と説明する製薬会社によるキャッチコピーだ。日本では、2000年ごろから、特に抗うつ薬のパキシルを販売するためのグラクソ・スミスクライン(イギリス・ロンドンに本社を置く世界有数の規模を持つグローバル製薬企業)による強力なマーケティングで使用された。
そして、このキャッチーなフレーズとともに、一般の人を医療機関受診へと促す「うつ病チェックリスト」が用いられた。その一部をご紹介しよう。
1、体がだるく疲れやすいですか
2、最近気が沈んだり気が重くなることはありますか
3、朝のうち特に無気力ですか
4、くびすじや肩がこって仕方がないですか
5、頭痛持ちですか
6、眠れないで朝早く目覚めることがありますか
上記チェックリストの症状に一度もなったことがない人はいるのだろうか。誰にでも起こりうることではないか。
製薬会社や医療関係者が、ある病気について大規模な啓発活動を行うことを疾患喧伝(けんでん)と呼ぶ。うつ病患者の急激な増加の背景には、製薬会社による、疾患喧伝(けんでん)があった。