自閉症者のパニックとその支援者|「一番傷つくのは本人」止めるためにはケガもいとわない過酷な現場

障害者ルポ

しかし、平成20年に産まれた長男 ハルキ君には、先天性横隔膜ヘルニアがあり、肺が通常の14%ほどの大きさしかなかった。ハルキ君は生後2日で亡くなり、松尾さんはショックから自宅にひきこもった。

 

その4年後の平成24年度に、障害者や医療的ケアが必要な人に対する計画相談支援制度がスタートした。

 

子どもを亡くしたショックから立ち直った松尾さんは、療育センターMにいたお母さんから誘われ、小児から成人発達障害者、身体障害者、知的障害者の相談支援業務と療育センターを合わせ持つKの施設長になる。Kには11年間勤務する。

 

11年間の施設長時代の印象的なエピソードをうかがった。松尾さんは主に、知的障害児者や知的障害を持つ自閉症児者の支援にあたっていた。

 

利用者に強度行動障害(強度行動障害とは、自分の体を叩いたり食べられないものを口に入れる、危険につながる飛び出しなど本人の健康を損ねる行動、他人を叩いたり物を壊す、大泣きが何時間も続くなど周囲の人のくらしに影響を及ぼす行動が、著しく高い頻度で起こるため、特別に配慮された支援が必要になっている状態のことを指す)がある場合、施設は「身体拘束の同意書」を取る。

 

身体拘束,同意書

(筆者の子の放課後等デイサービス利用の際の同意書)

 

そうでないと、自分自身またはスタッフの身の安全を確保できないからだ。移動支援(障害を持った方のレクリエーションや移動に同行する支援)中に外出先でパニックを起こされた場合、あらゆる手段で制止しないと利用者のパニックはエスカレートしていく。パニックに陥ったあとは、本人も後悔・反省をし、自責の念に苦しむ。本人の尊厳を守るためにも、どんな手段を使っても、制止するという。松尾さんの事業所も含め、障害者支援をしている事業所はよく、近隣住民から虐待者として通報される。その場合にも身体拘束の同意書の有無は、重要だ。

 

今はどこの障害者福祉事業所も同意書を取るようになっているが、知らない人が多い。

「身体拘束の同意書」というと、精神科での身体拘束をイメージする人も多い。

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