マイノリティのためのお役立ち情報&コミュニティ

自閉症者のパニックとその支援者|「一番傷つくのは本人」止めるためにはケガもいとわない過酷な現場

パニック,自閉症

印象に残っている勝さん(24歳・自閉症)は、ASDとADHDを併発したタイプの自閉症者でスライムでの感覚遊びが好きだった。だが、重度の自閉症児者は、環境が合わない・支援する相手の態度や話しかけ方、過去の嫌な出来事のフラッシュバックなどで、パニックに陥る。

 

支援者が、自閉症児者の尊厳を大切にしているか、利用者に寄り添っているかの差で、その頻度は変わる。だが、パニックの引き金を全て把握することは不可能だ。彼らは記憶力がいいので、過去に同じような嫌な体験をしたシチュエーションや、声音が似ているなどの理由で、フラッシュバックする。言葉でそれを表現できないだけに、どんな記憶がよみがえっているのかは分からない。

 

「スライムで楽しそうに遊んでいるときに、勝さんがパニックを起こしました。パニックになる瞬間は、顔つきが変わります。怖くないかと言えば噓になります。やはりパニックの最中は、怖いと感じます」

 

パニックを起こした勝さんは、自分のおでこをこぶしで殴り続けた。パニック時には、基本的には一人で制止する。だが、パニックのときには、自閉症者はものすごい力を出す。しかも、勝さんは若い男性だ。女性の松尾さんは時には、一緒に横になり、はがいじめにしてでも制止する。その時は、両手を押さえ、全力で殴るのをやめさせた。パニックが少し収まった段階で、ベテランスタッフがきてくれたが、勝さんのおでこはあざだらけになっていた。その後はクールダウンのために、施設内の個室に一人で座っていてもらった。

 

だが、自閉症者は何も感じないわけではない。クールダウンしている間に、自己嫌悪に陥ったりする。松尾さんが勝さんに「痛かったね」と言うと、悲しそうな顔をした。彼ら自身も止められない衝動の中で、傷つき苦しんでいるのだ。

 

「髪をつかまれてごっそり抜けちゃうことなんて、よくありますよ。スタッフはみんな消えないあざや傷があります。腱を切ったスタッフもいます。だけど、それって私たち世代の介護者にとっては、勲章なんです」と松尾さんはいう。

 

筆者が「ものすごく大変な職場ですね」と言うと「よく考えてみたらそうですよね。だけど、それだけ日常的なことなので、私は病院にも行きません」と豪快に笑った。

 

「あなたはなぜそれでも障害者介護を続けるんですか?」と聞いてみた。

 

松尾さんは「自己満足のためです。誰かを救いたいなんて思っていません。その結果、誰かが救われるというだけです。あとは、やはり地域に暮らす母としての仲間意識からです」と言った。

 

自己満足と言うと冷たく聞こえるが、ハルト君のトイレットトレーニングが成功して嬉しい、心が揺さぶられるというのは、自己満足だと思ったからだ。また、自身が医療的ケアの必要な子どもを2日で亡くしている。相談支援を通じて、医療的ケアが必要な子どもを持つ家庭や障害児者の家庭をみてきた。

 

医療的ケアが必要な子どものお母さんに「どんな支援が必要ですか?」と聞くと、切実な答えが返ってきた。「歯医者に行く時間が欲しい」「ゆっくり眠りたい」「家族旅行に一度も行ったことがないので、旅行に行ってみたい」など。それくらい、母親たちは、自分の時間を取れていなかった。必死で介護をしていた。もしハルキ君が生きていたならば、自分がその立場になっていた。他人事とは思えなかった。

 

その思いが、医療的ケアが必要な児童のための療育施設「カブリエル」の設立につながった。

 

「15分きざみで深夜も痰吸引|医療的ケアが必要な子の母たち。自身も医ケア児を2日で亡くした支援者の思い」

https://ai-deal.jp/interview/post-6051/

に続く