16歳で四国八十八箇所 野宿お遍路した文様作家が出会ったすさまじい現実とは?~優しい人、不思議な出来事、そして恐ろしい人間~

そのほか

旅の途中はあまり贅沢はできない。
インスタントラーメン、コーンスープ、手で押しつぶしてぺったんこにした食パン、ポカリスエットの粉、などを食べる日々が続く。

 

旅の途中住人から、
「ちゃんとご飯だべてますか?」
と声をかけられた。

 

「やっぱりあたたかい、白いご飯が食べたいですね」
と答えた。別れて、10~15分経った頃、
「お遍路さん!!」
と再び声をかけられた。
「ご飯食べられてないって言ってたから、すぐにおにぎり作って持ってきました」
とまだ温もりが残るおにぎりを手渡してくれた。

 

「本当に嬉しかったですね。旅の途中人の優しさを感じることがたくさんありました」

 

そんな温かい体験と同じくらい、不思議な経験も数多くしたという。

 

「僕は自分で怪談会を開くくらい怪談話がすごく好きなんです。単純に『幽霊がいる、いない』の話ではなく、人間の可能性の話だと思っています。
毎日3~40キロ歩いて、野宿してますから精神的にも肉体的にもボロボロになってきます。そういう時に、不思議な体験をします。もちろん、それは幻視幻聴なのかもしれません。でも自分が経験した話であることには間違いはありません」

 

四国の徳島に遍路転がしと呼ばれる焼山という山があった。遍路が転がって落ちてしまうほど、きつい山ということだ。

 

「まだお遍路をはじめて一週間しか経っておらず身体もできていませんでした。焼山を登っている途中で体力の限界がきました」

アプスーさんは山道で倒れたままジッとしていた。

「どうする? このまま倒れていたら危ないけど、進む体力もない……」

と悩んでいると、遠くからブツブツと人の声が聞こえてきた。それは般若心経を唱える声だった。

 

「仏説摩訶般若波羅蜜多心経 観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空……」

木の間から、何十人、何百人が唱える般若心経が聞こえてきた。人は1人も見えないのに、声だけが響いている。

 

「そのお経を聞いていたら、身体から疲れがとれてきて、神経全体が覚醒されたみたいになりました。ナチュラルハイですね。先程までは一歩も進めないほど疲れ果て倒れていたのに、立ち上がって早足で進むことができました。そしてお寺までたどり着くことができました。すごく印象的なできごとでした」

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