巡礼の旅を続けていると、お遍路同士がしばらく一緒に回ることもある。
アプスーさんは旅の途中で20代の男性と出会い、数日間一緒に歩いた。お互い若い人に会うのは久しぶりだったので、気もあった。
「彼は水彩画を描く人でした。動物たちに囲まれているお遍路姿の自分を描き、その横に詩を添えていました。詩は、感謝に満ちた、非常にポジティブなものでした」
野宿をしている時に、身の上話を聞いた。
男性は、家族仲が非常に悪く、居場所がなかった。そんな彼の唯一の味方は、動物たちだったという。犬、猫、蛇、ハムスター、トカゲ……など様々な動物を飼っていた。
ある日、男性は耐えられなくなり、お遍路さんになった。彼はそれ以来、ずっと巡礼の旅を続けている。
「話を聞いていて少し疑問に思いました。家族仲が悪かったのに、家族の元に動物たちは残してきたんだろうか? って」
アプスーさんがそう聞くと、男性は
「食べたよ」
と言った。
「当たり前じゃん。食べたに決まってるじゃないか」
と言って、どのようにかわいがっていた動物たちを食べたかを教えてくれた。
「彼らは食べなきゃ生きられないでしょ。彼らは僕の中で生きているんですよ。今も一緒に旅しているんです」
と言って、満面の笑みを見せた。
「その時は、こういう愛の形もあるんだ、って否定できなかったんですよね。今になって思うと、ちょっと怖い話なのかな? と思うようになりました」
アプスーさんから、お遍路さん話を聞くと、本当に心から旅に行きたくなった。
ただ巡礼の旅は、優しい面、不思議な面だけではないという。
「お遍路さんを狙った泥棒や追い剥ぎも出るみたいです。僕が旅していた時も、野宿をしようとしたら警察官に
『ここは危ないから、移ったほうがいいよ』
とアドバイスされたりしました。御朱印が揃っている御朱印帳は高く売れるので、狙われることもあります」
四国八十八箇所巡礼の旅、もし
「行こう!!」
と思った人は、ぜひぜひ気をつけて足を運んでください。