「青木ヶ原樹海で自殺したい」と相談を受けた筆者の話|『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』に載らなかったヒトコワ・エピソード

そのほか

「自殺の相談」というと
「これこれこういうつらいことがあって、自殺したいと思っています。どうしたらよいと思いますか?」
という人生相談的なことを言われるのかと想像していた。しかし実際にはかなり具体的な話を聞かれた。

 

「青木ヶ原樹海まで具体的にはどのように行くのが良いですか?」

電車で行くなら、まず河口湖駅まで行って、そこから道の駅である富岳風穴、鳴沢氷穴行きのバスが出ているからそれに乗る。

ただし、1人で風穴や氷穴に行くと、ボランティアで監視をしている人に声をかけられる可能性が高い。一旦目をつけられたら、かなりしつこくつきまとわれて、その日に樹海に入るのは厳しくなるかもしれない。

 

「なるほど。その場合はどうしたら良いと思います?」

その場合は、バス停を1つ2つズラすのがいいかもしれない。結局、見張っているのは観光地で人がたくさん降りる場所だから。そうでない場所でポツリと降りても気づかれない。
樹海は139号線と71号線の2本の道路に囲われているんだけど、青木ヶ原樹海にはどこからでも入ることができる。
わざわざ観光地用の入り口から入る必要はない。

青木ヶ原樹海

 

「なるほど。参考になります!! でももし万が一ボランティアの人に声をかけられた場合、どうしたら良いですか?」

自殺しそうな服を着てると、声をかけられやすい。たとえば、くたびれた背広に革靴で行ったら、まず止められる。
ちなみに俺が樹海に入る時は、ほぼ登山をするような服で来る。そして一眼レフカメラを首から下げてる。
自殺者と間違われないためにそういう服を着てるわけじゃないけど、結果的にあまり声かけされたりしない。

 

「実際に、樹海のどこで自殺するのが良いですかね? どれくらいの深さまで入れば良いですか?」

自殺をして誰にも見つからず骨になりたいなら、ある程度の深さまで入っていかないといけないと思う。
浅いところだと、森林浴で散歩している人や、ボランティアの人に見つかってしまう可能性が高い。

 

「え? いや。僕は骨にはなりたくないですね。見つかりたくないって気持ちは分からないです。
まず最後まで死ぬのが第一条件です。自殺の途中で発見されて止められてしまい、障害者として生き続ける、というのが最悪の事態です。
でも死んでしまったら、なるべく早く見つかりたいんです。両親に腐った自分を見せたくはないです」

 

そう告白されて、混乱してしまう。
俺は、樹海で自殺する人は基本的には、
「誰にも見つからずに死にたい」
と思っていると、考えていたからだ。

 

確かに俺は自殺死体をいくつも見てきて、死体を見ながらいろいろ想像したけれど、死体から直接話を聞いたわけではない。

 

ただ
「確実に死ねるが、しかし腐る前に見つかる」というのは、測ってできるものではないと思う、と言うと、彼は
「それはそうですよね」
と言って、軽く笑った。

 

そこからは、具体的な自殺の方法の話になった。青木ヶ原樹海での自殺で最も多いのは首吊り自殺で、ついで服毒自殺になる。どのようなロープを用意して、どのように設置している人が多いのか、成功例を紹介する。

 

男性は、普通自殺志願者に想像する「死にそうな顔」では全然なく、むしろ生き生きと楽しそうに話を聞いている。

話をしながら段々頭が混乱してくる。
自殺志願者に、自殺の仕方を教えるのは、『自殺幇助罪』にあたるのではないかと不安になってくる。

 

だから時折
「いや、でも自殺しないっていう選択肢もあると思うよ……」
と俺も言うのだが、そのたびに
「いやあ、またまたそんな」
と笑って打ち消してくる。
そのたびに僕の心の奥の方で、自信とか価値観とかが崩れていくのが分かる。

結局、1時間ほど彼の相談に乗って別れた。

 

彼はその後に開催した、トークライブを観に来てくれた。
壇上からは、トークを聞きながら楽しそうにニコニコと笑う男性の顔がよく見えた。
もう一ヶ月以内に死のうと思っている人がこんなに楽しそうに笑うのか。
と俺はとても不安定になった。
帰宅後、どこか心がおかしくなってしまい、しばらく寝込んでしまった。

 

彼のSNSを覗くと、
「村田らむさんが相談に乗ってくれてありがたかった」
と書かれていた。
そしてしばらく経った後、彼のSNSは、彼が自殺すると予告していた日時で消えた。
それ以来、一度も連絡はない。

 

「ひょっとしたら、手のこんだイタズラじゃないのか?」
と思うこともある。

 

だが、俺の直感は、
「彼は本当に死にたくて相談して、おそらく樹海で自殺した」
と感じている。

人怖,人の狂気に潜む本当の恐怖,村田らむ

 

 

 

 

 

 

 

続きを読む - 1 2

(adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});