【一人で孤独な出産】
私は手術までの一週間のほとんどを泣いて過ごした。
食事すら食べられなくなった私を心配した病院側は保健師さんを派遣してくれた。
「きっと旦那さんも初めての出産で、お父さんになるのが不安なだけ」
「出産してしまえば、きっと旦那さんも変わる」
と言った慰めの言葉を聞いても、不安が晴れることはなかった。
里帰り出産を選ばなかった私は、慣れない土地の病院で一人泣き続けた。
そして、帝王出産当日。義父母の説得にも応じなかった元夫は病院に現れなかった。
私はその時点で、一人で子を育てる覚悟を決めていた。
だけど、覚悟というほど、恰好のいいものではなく、頭の中では子供を抱え、今後、どう暮らしていくかという不安でいっぱいだった。
手術が開始され、上半身に麻酔が始まった。
麻酔薬が脊髄を通っていくほど、体が寒くなったことだけ覚えている。
もうろうとする意識の中で「どうして」「なぜ」とうわごとを繰り返した。
そして、無事、息子の歩(あゆむ)は産まれた。
2,800グラムの元気な赤ちゃんだった。
歩が産声を上げ、抱いたときの感想は
ドラマや育児本に書いてあるような感動的なものではなかった。
「小さい猿みたい」
「この小さい猿は私なしでは生きていけないんだ」
「私の20年近い、会社員としてのキャリアは、この子によって断たれるんだ」
「3時間起きにミルクって何の拷問だろう」
そんなことが脳裏をよぎった。
私に母性なんてないんじゃないかと思ったくらい、感動しなかったのだ。
たぶん私のような感想を持つお母さんってたくさんいると思う。
なので、育児書はこういった
「出産後すぐに感動しないお母さんもいますよ」という情報もぜひ書いてほしい。
それでも、歩は産まれたのだ。力強く。