毎朝、寝起きに、
「自分は人を殺している」
とリアルに想起するようになったのだ。
そして、徐々にそう思う時間は長くなっていった。
もちろん自分が人を殺していないことは、自分が一番良くわかっているのだが、それでも
「どうしても思い出せないが、実は本当は人を殺しているのかもしれない」
と思うようになっていった。
実際に現場に行ったりしているのが良くなかったのだろう、フラッシュバックのように殺人の場面を思い出すようになった。
そして最終的には、殺人がバレることを怯えるようになり、情緒が不安定になってしまった。
その社長のSNSを見て、彼が生きていることを確認し、ホッとした。
なんで殺したいほど憎いと思った人間が、生きていると知ってホッとしているのか?
わけが分からない。
その段階になって、
「あ、これは病気になる一歩手前だな……」
と気がついた。
すでに病気だったのかもしれない。
つまり
『人を呪って、自分の穴だけ掘ってしまった』
形になってしまったのだ。
それからは架空の殺人計画を立てるのはやめた。そして“恨み”そのものを思い出すことをなるべくやめた。
しばらくすると、寝起きに
「自分は人を殺した」
と思うことはなくなっていった。
それからは社長に限らず、全ての恨みを感じた相手をなるべく思い出さないようにしている。
思い出して「ムカッ」っとするたびに、すぐに別のことを考え(例えば大量のバナナが空から降ってくる……とか)、その人物のを脳から追い出すようにするイメージだ。
そうすると段々、他人に対して怒りを感じること自体がなくなっていった。
その人の存在が自分の中で消えていき、段々名前も思い出せないようになっていった。
そういう、
「人を恨んで呪っても、得はないな……」
と、気づいた一件だった。