真冬の路上で眠る、ホームレスたち。昨日まで元気だった人が、あっさりと凍死することもある。

そのほか

身体が冷え切っても、それを温める場所も、手段もあまりない。
身体を動かして温めるのが一番有効だ。だから夜中の一番冷え込む時間にあえて、空き缶集めなどをする人もいた。一晩中歩き回って空き缶を集め、空き缶を潰し、袋詰していたら、少しは体温は上がるかもしれない。
でも、夜は自動車事故に遭うリスクは高いし、酔っぱらった人たちから暴力を受ける可能性も高い。
そして夜に歩き回ったぶん、まだ暖かい昼間に眠る。そして眠っている姿を見たサラリーマンに
「ホームレスは気楽でいいよな」
と嫌味を言われるのだ。どう考えてもそんなに、気が楽な仕事ではない。

かつて上野公園に小屋を建てている人に室内を見せてもらったら、部屋の中ギッシリ布団を詰め込んでいた。その中にギュウギュウと身体を詰め込んでいく。棺桶だってもうちょっと余裕があるだろうと思うくらい、みっしりと這入る。身体の熱を外に逃さないようにしているのだ。だがそれでも悲劇は起こる。

 

当時、上野公園では“山狩り”と呼ばれる措置が取られていた。皇室関係者が、上野公園の博物館などを公務で訪れる際、前日と当日に公園でテント暮らしをしている人たち全員が立ち退きにさせていた。
山狩りの日に、冷たい雨が降った場合は大変だった。朝からみんなびしょ濡れになりながらテントをたたみ、台車に載せて運んでいく。荷物は近所のお寺の前に並べて置くことになっていた。置いた後はめいめい時間をつぶす。ただ金銭的ゆとりがない人にとって、寒空の下で時間をつぶすのは大変だ。

 

雨はいつの間にか雪に変わって、彼らの荷物の上に薄く積もっていた。
そうして皆が移動し終わっても、移動していないテントがある。

 

「おかしいなあと思ってテント開けてみたら、中で冷たくなってたよ。昨日までは元気だったんだけどね。人間分からないものだよね」

と発見したホームレスは、寂しそうな表情で語った。
その時亡くなった人は、少し前に僕も話を伺っていた人だったのでショックだった。
すぐに遺体が運ばれ、テントが片付けられ、何事もなかったようになった。

西成のプーさん

西成のプーさん

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